『風、薫る』は“新しい朝ドラ”を作ろうとしている 「また間違えた」に込められた真意
NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『風、薫る』の放送がはじまり、1カ月が過ぎた。
本作は明治時代を舞台にした朝ドラで、日本ではじめてトレインドナースとなった大関和と鈴木雅をモチーフにした、一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)が主人公の物語だ。
4月に放送された第1~4週は、りんと直美の物語が交互に描かれたが、どちらの人生も怒涛の展開の連続だった。
りんは父親の信右衛門(北村一輝)をコロリで亡くし、家族を支えるために18歳年上の男と結婚して娘を出産するが、夫とはうまくいかず、屋敷が火事になったことをきっかけに家から逃げ出す。その後、東京に向かい、必死で職探しをしたところ、偶然知り合った清水卯三郎(坂東彌十郎)の厚意で、彼が経営する日本橋の外国の珍しい品を扱う商店「瑞穂屋」で働くことになる。
一方、孤児の直美はマッチ工場で働いていたが、工場長から本を盗んだという濡れ衣を着せられ仕事をクビになる。その後、英語が得意な直美は、鹿鳴館の華と呼ばれる貴婦人・大山捨松(多部未華子)に「自分は旗本の娘で、通訳をしている父が病で倒れたため、鹿鳴館で働かせてほしい」と頼み込み、鹿鳴館のメイドとなる。そして、アメリカ帰りの海軍中尉・小日向栄介(藤原季節)と知り合い、交際を申し込まれる。小日向と結婚すれば貧しい暮らしから抜け出せると思った直美だったが、実は小日向は詐欺師で、直美と同じように身分を偽って鹿鳴館にもぐりこんでいたのだった。
普通の朝ドラならじっくりと描きそうな結婚、恋愛、出産、家族との死別といった出来事を、本作は4週で一気に描いた。中でも驚いたのは、りんの結婚から出産までの時間を一気に飛ばしたことだが、逆にそれは「女性の幸せはそれだけではない」と語っているように感じた。
物語が本格的に動き出すのは、りんと直美がトレインドナースになるために、梅岡女学校付属看護婦養成所に入学する第5週からだ。年齢や身分の違う女性が1期生として登場し、お互いの意見をぶつけ合いながら学び成長していく姿は、学園ドラマとしてとても面白い。
2024年度前期に放送された『虎に翼』でも、主人公の寅子(伊藤沙莉)が日本人女性初の弁護士となるため、明律大学女子部法科に入学し、弁護士を目指す女性たちと出会う場面から物語にドライブがかかっていた。第2週で大学に入学した『虎に翼』と比べると、第5週でやっと学生編が始まる『風、薫る』はスロースタートに感じる。
養成所に入学するまでのりんと直美の物語は失敗と挫折の連続で、観ていて苦しくなる瞬間が多かった。だが、この4週間で彼女たちのままならない人生を徹底的に描いたからこそ、2人がトラインドナースを目指す理由が明確になり、本作のテーマがよりはっきりしたのではないかと感じた。