松村北斗はなぜ誠実な役が似合うのか? 『九条の大罪』烏丸真司の“静”の演技が光る理由
いや、たしかにハマっているのは間違いない。ただ、“等身大の青年に誠実に向き合う姿が印象に残る”というほうが正しいだろう。落ち着いたトーンで一つひとつのセリフを丁寧に口にする姿が強く印象に残るから、演じるキャラクターのすべてが“誠実な好青年”に思えてしまう。しかし実際には、大きな喪失感とともに生きる『キリエのうた』(2023年)の潮見夏彦も、パニック障害を抱えながら日々を紡ぐ『夜明けのすべて』(2024年)の“山添くん”も、『ディア・ファミリー』(2024年)で演じた不器用な性格の研究医の富岡進も、過去の恋愛に囚われ続ける『秒速5センチメートル』(2025年)の主人公・遠野貴樹も、決して明るくはない人物だ。“好青年”とは違う。役に向き合う松村の態度が、私たち観客がキャラクターに対して抱く印象を変えるのだ。
では、『九条の大罪』での松村はどうか。作品が作品なだけに役のタイプは大きく異なるが、烏丸真司というキャラクターもまた、松村こそが演じるべき存在だと思えるものに仕上がっている。本作の登場人物たちの中でもっともマトモな彼は、快活な性格ではないし、特別な優しさを持っている人物というわけでもない。しかし、全10話を観終えたいま、やはり“誠実な好青年”だという印象を抱かざるを得ない。これは私だけではないだろう。
主演の柳楽をはじめとする個性的な俳優陣の掛け合いは、その一つひとつが非常に勢いのあるものだ。ハードでヘビーな物語は、ときに凄まじいスピードと荒々しさを持って、視聴者に迫ってくる。フィクショナルな展開は、勢いで押し切ることもできるだろう。しかし、ほとんどのシーンがそうなっていない。いつもどおりの松村の丁寧な演技が、烏丸真司というキャラクターを地に足の着いたものとし、ひいてはそれが作品世界そのものにも安定感を与えているからだ。彼ら(松村北斗=烏丸真司)の丁寧な仕事は、静かだが熱がある。そしてそれが、作品全体の完成度を上げるのだ。
烏丸真司は素朴な青年だが、荒くれ者たちの中でも彼の個性は薄らぐことがない。松村北斗という演技者が演じることによって化学反応を起こし、その素朴さこそがかえって圧倒的な個性になっている。しかし、欲を言えばこういった作品なだけに、松村の演技が不安定な状態に陥ったり、激しくなっていくのが観たかったというのも正直なところ。これはない物ねだりだろうか。もしも「シーズン2」があるならば、そんな姿にも触れてみたいものだ。
■配信情報
Netflixシリーズ『九条の大罪』
Netflixにて世界独占配信中
出演:柳楽優弥、松村北斗、池田エライザ、町田啓太、音尾琢真、後藤剛範、吉村界人、水沢林太郎、田中俊介、黒崎煌代、石川瑠華、原田泰雅(ビスケットブラザーズ)、吉田日向、 川﨑皇輝、佐久本宝、和田光沙、水澤紳吾、福井晶一、氏家恵、六角慎司、諏訪珠理、奥野壮、うらじぬの、前原瑞樹、遊井亮子、長尾卓磨、田辺桃子、森田想、杢代和人、岩松了、渡辺真起子、菊池亜希子、長谷川忍(シソンヌ)、香椎由宇、光石研、仙道敦子、生田斗真、ムロツヨシ
原作:真鍋昌平『九条の大罪』(小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)
監督:土井裕泰(TBSテレビ)、山本剛義(TBSスパークル)、足立博
脚本:根本ノンジ
音楽:O.N.O
主題歌:羊文学「Dogs」(F.C.L.S. / Sony Music Labels)
プロデューサー:那須田淳(TBSテレビ)
エグゼクティブプロデューサー:髙橋信一(Netflix)、杉山香織(TBSテレビ)
制作協力:TBSスパークル
製作著作:TBSテレビ
配信:Netflix