岸井ゆきの、『お別れホスピタル』で得た“演技”への原点回帰 “生と死”を見つめた先に

役者は「どうやっても一人じゃ生きられない世界」

ーー前作の取材時に制作統括の小松プロデューサーが「岸井さんはとても受容能力が高い役者である」とおっしゃっていました。辺見という一人一人の患者と向き合わなくてはいけない役を演じる上で、どのような準備や思いで臨まれたのでしょうか?

『お別れホスピタル』は“人間賛歌”ドラマ 沖田×華の原作を昇華させた制作陣にインタビュー

岸井ゆきのと松山ケンイチが共演するNHK土曜ドラマ『お別れホスピタル』(全4話)が放送中。本作は、末期がんなど重度の医療ケアが必…

岸井:そこは割と無意識というか、自然な状態でした。この作品は特に、「こういうふうに表現して、こう演じたい」と強く主張する人がいらっしゃらない現場だったんです。本当に感じたまま、大きくも小さくもせず、今感じていることで十分伝わるということを信じている役者の皆さんが集まっていました。なので、コミュニケーション一つとっても、台本の読み方一つとっても、“演技をしよう”と無理をしたことは多分ありません。「こんな気持ちになったけれど、これは自分の気持ちなのか、辺見の気持ちなのか。エゴになっていないか」と調節のために相談することはありますが、「そう感じたなら、それをやってみて」と言ってくれる方々でした。ほかの現場では、「もっと頑張らなきゃ」と自分を追い込むことが多いので、その点は本作ならではかもしれません。生と死に向き合って心が痛むことはあっても、それすらも現場のみんなが同じ気持ちだと思えるから、安心して現場にいることができました。

ーー前作の第1話の冒頭、朝日を海で辺見が見ているシーンがすごく印象に残っています。セリフのない無言の表情が作品全体を貫いていたように感じました。それは今のチームの空気感があったからこその表現だったのでしょうか?

岸井:そうですね。そこにいて、朝日を見て感じた顔です。脚本も、「陽が昇っている」というシーンに対して、強制されるものがなくて自由なんですが、それが困る自由ではないんです。今回も朝日のシーンはありまして、作品を象徴するシーンであり、現場でチームみんなでこだわったものになりました。実は朝日が昇らなくて、2回海へ行ったんですよ(笑)。

ーー後編のあらすじにも「あなたと話したい」 というキーワードがありますが、本作を通して「他者と関わること」や「演じること」について改めて考えたことはありましたか?

岸井:この作品に限らずですが、私は台本を読むとき、自分一人で深く掘り下げて考えてしまうことが多いんです。自分の中では「この絶望はクリアした」「これで大丈夫」と思って現場に行くのですが、いざほかの役者さんと対峙して“話す”と、いとも簡単にその絶望につまずいてしまう自分に気づくことがあって。どうやっても一人じゃ生きられない世界なんですよね。だから、他者と関わっていないと、勘違いしたまま生きていけちゃうなと痛感しました。今回の現場は、感じているのは私自身だし、喋っているのも私自身という感覚が強すぎて、「演じるってどういうことなんだろう?」という原点に回帰するような不思議な体験でもありました。

ーー『お別れホスピタル』はエンターテインメントの枠を超え、特別なシリーズになっていると感じます。

岸井:叶うことなら今後も続けたい作品であり、特別な一作になっています。そして、私が出演しているからということを抜きにして、もっと広い意味で、多くの方に観ていただきたいと思っています。死はどんな人にも訪れるものであり、誰にとっても自分ごととなる物語です。好きなジャンル、いつも観るジャンルなど、好みは皆さんあると思うのですが、こんなに誰にとっても当事者になりうる作品はないと感じています。登場人物はご高齢の方々が多いですが、病を患う可能性は誰にでもあります。生きているということは、必ず平等に誰にとっても死もあるということ。私自身、本作を通して、死を認めることができたというか、死を知ることで、より今を生きることができるようになったと感じています。もちろん、生と死について“正解”があるわけではないし、本作も何かを押し付けるような作品ではありません。でも、必ず今を考えるきっかけになる作品だと思います。

■放送情報
土曜ドラマ『お別れホスピタル2』
NHK総合にて放送
前編:4月4日(土)22:00~22:45
後編:4月11日(土)22:00~22:45
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信
出演:岸井ゆきの、松山ケンイチ、内田慈、仙道敦子、国広富之、円井わん、長村航希、山本裕子、きたろう、根岸季衣、田村泰二郎、麻生祐未、小野花梨、丈太郎、伊東四朗、渡辺えり、YOU、広岡由里子、阿川佐和子、柄本明
原作:沖田×華
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
演出:柴田岳志
制作統括:小松昌代(NHKエンタープライズ)、谷口卓敬(NHK)
写真提供=NHK

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