『ばけばけ』最終回前に訪れたヘブンとの別れ 史実を踏襲した穏やかで切ない最期

「シツレイナガラ、オサキ、ヤスマセテ、イタダキマス」

 オープニングがタイトルバックのみの『ばけばけ』(NHK総合)第122話で、ヘブン(トミー・バストウ)がこの世を去った。

 ヘブンは病に冒されていた。家族の前では顔に出さないものの、大きな痛みが繰り返し、病状は深刻そうだ。ヘブンはトキ(髙石あかり)に、「コノイタミ、オオキクナッタラ、シヌデショウ」と告げる。早咲きの桜を「かわいそうに」と同情しながら、「ハロー、アエテウレシイ」と声をかけるヘブンだった。

 史実では、小泉八雲は、明治37(1904)年9月26日夜に逝去した。1週間前に心臓発作に襲われ、二度目の発作が起きた日だった。「ママさん、先日の病気また参りました」と言って横になり、そのまま息を引き取ったと言われる。54歳だった。

 『ばけばけ』で描かれたヘブンの死にざまは、史実を踏襲したといえる。自宅で最期を迎え、病気の進行が早かったこと。朝食の席でしじみ汁に嘆息し、魚の小骨をトキに取ってもらう。家族のだんらんを見届けてから、トキと過ごす時間が夫婦の別れになった。

 ヘブンは死んだ後のことをトキに話して聞かせる。自分が死んでも悲しまないでほしい。決して泣いてはいけない。気がかりなのは、幼い子どもたちのことだ。子どもたちと遊んであげてほしいと、ヘブンはトキに頼む。かるたやハトのものまねをしたり、虫を捕まえて、大人になったらビアを飲み、酔ってスキップをする。

 『怪談』に登場する幽霊たちのように、この世に未練を残して逝ってしまう哀しみと切なさ、うらめしさがヘブンの胸にはあったはずだ。彼らと違うのは、ヘブンにはトキがいることだ。トキがいるから、安堵してあの世に行けると感じたのではないか。怪談をともに紡いだ二人にとって、死は悲しいものであっても、決して受け入れがたい嫌悪すべきものではなかったと思う。

 ヘブンは、錦織(吉沢亮)や勘右衛門(小日向文世)と再会しているはずだ。傳(堤真一)とは会えただろうか。あの世が悪いところじゃないと思えるのは、故人がよく生きた証拠である。

 瘤寺で葬儀を行い、雑司ヶ谷の墓地に葬られた八雲のように、ヘブンも遺言どおり、ひとけのないわびしい墓地に葬られた。親族や近しい友人がヘブンの墓所を訪れた。トキは涙をこらえていたが、サワ(円井わん)の前でようやく感情を爆発させることができた。

 あの世に通じる世界を『ばけばけ』は描いてきた。ドラマでは、あの世だけでなく、ヘブン亡きあとの現世にも目を向けている。トキにはやるべきことがあり、イライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)の来訪がそれを教えてくれるだろう。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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