『GOT』の伝統覆す驚きの語り口 『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』が示す新時代
果たしてダンクを騎士たらしめるものとはなんだろう? 物語はダンクの胸中に去来する老士サー・アーランの姿を度々フラッシュバックしていく。そこにあるのはとても模範的とは言い難い姿だ。寝ている間に自らの脇差で腹を刺すような酔いどれ。浮浪者同然の身なりで、剣の腕が立つのかもあやしい。「理由もなくぶたなかった」とダンクは言うが、思い出すのは理由もなく叩かれた記憶ばかりだ。七王国では騎士が騎士を叙することができるが、ドラマではサー・アーランが今際の際、ダンクを騎士に叙したかは言及されない。彼が正しさを説くような場面もない。ダンクが七王国の騎士を目指すのは、内なる野心と夢。大いなる志こそが形を成していくのである。
ダンクは庶民への乱暴狼藉を働いたターガリエン家の王子エリオン(フィン・ベネット)をしたたかに痛めつけてしまう。これに端を発した裁判は、7対7の集団戦闘「七の審判」へ発展。身内を守るべくターガリエン家が強豪を揃える中、コネも人脈もないダンクは夜明けまでに6人の騎士を集めなければ、代償に手足を切られてしまう。ショーランナー陣は2026年に然るべきTVシリーズのナラティブを見つけ出したかもしれない。語り口は簡潔にして洗練。そして約30分という放送枠が、まるでジャンプアニメにも似た熱量を生み出しているのだ。緊迫の第4話から転じてシーズンハイライトの第5話、「七の審判」は予算上の制約から辺り一面にスモークを焚くことでスケール感を誤魔化したというが、『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズ随一の傑作エピソード『落とし子の戦い』(シーズン6第9話)を彷彿とさせる視野狭窄的な戦場のカオスは圧巻だ。
2010年代後半、アイデンティティ・ポリティクスの時代を経て、現在の映画やTVシリーズは激動する社会イシューから再び人間の野心、欲望、夢……即ち人間そのものへと目を凝らしつつあるように思う。卓球世界王者を目指す主人公の規格外の野心を描いた『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』。メイクマネーとセックスが存在の耐えられない軽さを浮かび上がらせる『インダストリー』。エメラルド・フェネルの『嵐が丘』は性愛のエンターテインメントとしてメインストリームに蘇った。
『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』では国を二分した内戦「双竜の舞踏」から約100年、ドラゴンという大量破壊兵器は消え、戦火の記憶も遠くなった時代(それは新たな戦前でもある)、名だたる戦士たちに天下統一はおろか権謀術数の下剋上という野望もなく、あるのはただ“歴史に名を刻みたい”という欲求だけである。各地の勇士を知り尽くしたエッグの無邪気さには、後に史実となる歴史的瞬間を目にしたいという、生存本能にも似た欲求が渦巻くのではないか。デクスター・ソル・アンセルという素晴らしい子役を得たことによって、本作は成功を約束された(そう、スポーツ映画にはリングサイドに立つ名子役の存在がつきものだ)。私たちは伝説の瞬間を目撃するためテレビの前ににじり寄り、声を上げる。
「さぁ、立ってください!」
■配信情報
『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』
U-NEXTにて独占配信中
出演:ピーター・クラフィ(杉田智和)、デクスター・ソル・アンセル(釘宮理恵)、バーティ・カーヴェル(てらそままさき)、サム・スプルエル(志村知幸)、フィン・ベネット(仲村宗悟)、ヘンリー・アシュトン(小野大輔)、ダニエル・イングス(咲野俊介)、タンジン・クロフォード(Lynn)
原作:ジョージ・R・R・マーティン
脚本・製作総指揮:ジョージ・R・R・マーティン
共同クリエイター・ショーランナー・製作総指揮:アイラ・パーカー
製作総指揮:ライアン・コンダル、ヴィンス・ジェラルディス、オーウェン・ハリス、サラ・ブラッドショウ
監督:オーウェン・ハリス、サラ・アディナ・スミス
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