『罪人たち』『ワンバト』『国宝』 第98回アカデミー賞、納得と少しだけ困惑のノミネート
第98回アカデミー賞のノミネート発表が1月22日(日本時間)に行われた。ライアン・クーグラー監督による『罪人たち』はどの賞においても有力候補だったものの、まさかの16ノミネートという史上最多記録を更新してしまうほどの快進撃。続いて、レオナルド・ディカプリオ主演の『ワン・バトル・アフター・アナザー』が13ノミネートとなった。
ホラー(ジャンル)映画の存在感、強まる?
『罪人たち』があらゆる主要部門にノミネートされたこと自体は、本作が筆者個人の2025年ベスト入り作品であることを抜きにしても、とても喜ばしい結果だ。クーグラー監督といえば、『ブラックパンサー』でマーベル映画として初のアカデミー賞“作品賞”を含む7部門にノミネートされた過去がある。しかし、受賞は作曲賞・美術賞・衣装デザイン賞の3部門という結果で、そもそもノミネート自体素晴らしい快挙なのだが、惜しくも監督自身の功績に直結するような賞の受賞を逃している。そんな彼がアメコミに続き、今度はホラーというジャンル映画で98回に及ぶアカデミー賞の歴史を、最多ノミネーションの形で更新したことはなんとも痛快だ。
ホラーといえば、第97回では『サブスタンス』のデミ・ムーアが主演女優賞にノミネートされたように、今回もホラー映画女優のノミネートがあった。『WEAPONS/ウェポンズ』のグラディスおばさんを怪演したエイミー・マディガンだ。助演女優賞にノミネートされた彼女は、すでにアカデミーの前哨戦とも言われるゴールデングローブ賞でも同作でノミネートを受けている。なお、彼女がアカデミー賞助演女優賞にノミネートされるのは、1985年の『燃えてふたたび』以来のことだ。
そして何よりギレルモ・デル・トロの『フランケンシュタイン』も『罪人たち』『ワン・バトル・アフター・アナザー』に続く9部門でノミネート。しかも作品賞にノミネートされている。5年ほど前まではジャンル映画が不遇のアカデミー賞だったのに対し、近年はそれらの作品が衣装デザイン賞や視覚効果賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞に留まらない部門でノミネートを続けていて、新しい、いい風を感じる。
新しい風は、ブラジルにも吹きはじめた。昨年度はウォルター・サレス監督の『アイム・スティル・ヒア』が作品賞、主演女優賞(フェルナンダ・トーレス)、国際長編映画賞にノミネートされたが、今年度は同じくブラジルから『シークレット・エージェント』が主要4部門にノミネート。昨年に続き、作品賞&国際長編のWノミネートと主演俳優(今回は主演男優賞/ワグネル・モウラ)、そして新設されたキャスティング部門で名が挙がっている。
新設「キャスティング賞」の見方
ちなみにこのキャスティング部門とは、監督やプロデューサーから依頼を受け、作品に出演する俳優をキャスティングする「キャスティング・ディレクター」の功績を讃えるもの。少し雑な説明かもしれないが、最終的な採用権限は監督やプロデューサーが持つものの、「誰がどこで見つけてきたんだ、この原石!!」「〇〇をこの映画に引っ張ってきた人にボーナスを!!」と映画を観ながら胸が熱くなった時に、振り返るべき相手といえばわかりやすいだろう。まさに映画制作においては重要な役割を担うポストであり、1990年代後半からこの「キャスティング賞」の実現を目指す運動があった。転機は2013年にアカデミー内でキャスティングディレクター分科会が設立され、その専門性と業績の認知が加速したことにある。
とはいえ、名前だけ聞いてもすぐに「あの作品のあの人か」と繋がる人も少ない部門かもしれない。そこで簡単に今回ノミネートされたメンバーの経歴作品を紹介しよう。
『ハムネット』のニナ・ゴールド、はHBOでお馴染みの『ゲーム・オブ・スローンズ』やNetflixの『ザ・クラウン』でエミー賞を複数受賞してきた大物。そして過去のアカデミー賞ノミネート作品でいえば『教皇選挙』などを担当している。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のジェニファー・ヴェンディッティも『ユーフォリア/EUPHORIA』でエミー賞キャスティングディレクター賞にノミネートされた過去があり、サフディ兄弟の『アンカット・ダイヤモンド』などを担当した。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』のカサンドラ・クルクンディスはプロデューサーとしても多くの作品を手がけてきた人物で、キャスティングとしては第97回アカデミー賞主演男優賞をエイドリアン・ブロディが受賞した『ブルータリスト』や、多数のポール・トーマス・アンダーソン作品(『リコリス・ピザ』、『ファントム・スレッド』、『インヒアレント・ヴァイス』)を担当。
先述した『シークレット・エージェント』のガブリエル・ドミンゲスは主に国内で活動をしており、脚本家として『Baby(原題)』で複数の賞にノミネート・受賞した経歴を持つ。そして『罪人たち』のフランシーン・マイスラーは『DUNE/デューン 砂の惑星』や『マリッジ・ストーリー』、『チャレンジャーズ』などのアカデミー賞ノミネート作品のほか、『メディア王 〜華麗なる一族〜』や『トゥルー・ディテクティブ』、『ザ・スタジオ』などの人気ドラマシリーズも担当する人物だ。こんなふうに過去の経歴を見ていくと、そのキャスティングディレクターの特色のようなものも垣間見えて面白いのではないだろうか。
さて、『ワン・バトル・アフター・アナザー』など、劇場公開後に世界的にも好評だった作品が複数部門ノミネートされている結果はとても“わかりやすい”。しかし、一方で第98回アカデミー賞ノミネート結果には“わかりづらい”というか、「あの作品が総スカン?」的な、やや困惑してしまう面もある。