松山ケンイチ×小林虎之介の熱演に痺れる 『テミスの不確かな法廷』が向き合う“わからなさ”
「僕は宇宙人。生まれながらにして地球人の“普通”がわからない」
私たちが暮らす社会は、さまざまなルールによって成り立っている。法律や条例のように明文化されたものから、道徳やマナーといった見えないルールまで、多岐にわたる。その社会に上手く適応できないとき、人は思う。ここは私の星じゃない、と。
1月6日にスタートしたNHKドラマ10『テミスの不確かな法廷』の主人公は、まさにそのような苦悩や孤独とともに生きている。本作は、発達障害を抱える裁判官・安堂清春(松山ケンイチ)が、自らの特性と格闘しながら難解な事件に挑む法廷ヒューマンドラマだ。
第1話で安堂が担当することになったのは、詐欺未遂および傷害事件。被告人の江沢卓郎(小林虎之介)は、藤山澄久(金井勇太)が運転するタクシーに故意にぶつかり、保険金と賠償金を騙し取ろうとした。ところが、乗客の茂原孝次郎(飯田基祐)にわざとであることを指摘されるや否や、突然殴りかかり、怪我を負わせたという。
卓郎の言動には、不可解な点がいくつかあった。知能犯から粗暴犯への変貌、あるいは無罪を主張しながら、その立証に不可欠な弁護人に非協力的な態度を取り続けている点だ。安堂は被告人と意思疎通ができていないと判断した最初の弁護人を解任。さらには、自ら卓郎の自宅に赴き、関係者に聞き取りを行う。
本来、極めて限定的な場合にのみ発動される裁判官の職権を大いに行使し、事件と向き合う姿勢は、同じく脚本家・浜田秀哉が手がける『イチケイのカラス』(フジテレビ系)の主人公・入間みちお(竹野内豊)との共通点だ。しかし、その行動原理は、みちおが「すべてをわかった上で、事件に関わる全員にとって一番良い判決を下したい」という“正義感”だったのに対して、安堂の場合は発達障害の特性というところに違いがある。
幼い頃、安堂は自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)と診断された。どちらも発達障害の一種で、ASDは「人の気持ちを読み取るのが苦手」「特定の物事に対する強い興味やこだわりを持つ」、ADHDは「不注意やケアレスミスが多い」「思いついたままに行動」といった特性を持つ。ゆえに安堂は一度気になり始めると、そのことがずっと頭から離れず、自分で確かめずにはいられないのだろう。だが、その行動が卓郎の新たな弁護人となった小野崎(鳴海唯)にヒントを与え、真実への扉が開かれる。
卓郎にとって、被害者の茂原は自分から家族を奪った張本人だった。前橋市長である茂原は市の開発部長だった当時、工業誘致に失敗。土地を売った卓郎の父親は職にあぶれ、妻に家出された末に自ら命を絶っていた。さらに、ゴルフ大会という体を取った茂原の後援会に参加していた医師たちによって、見殺しにされた姉の郁美(村上穂乃佳)は卓郎の唯一の家族だったのだ。
卓郎はそのことを、姉の同級生だった藤山から聞かされた。しかし、タクシー運転手が車内で見聞きしたことを口外するのはご法度。藤山に迷惑はかけたくない。だが、犯行の動機が単なる詐欺目的で片付けられ、姉の死の真相が闇に葬り去られるのは許しがたいという葛藤が、卓郎の不可解な言動に繋がっていたのである。
最後に法廷で「姉ちゃんの分まで生きたい。今の俺にはそれしかないから」と述べた卓郎。真実が明らかにされたとて、失われた命は還ってこない。そのやるせなさに打ちひしがれながらも、己の落ち度を認め、その内省を未来へと繋げていく卓郎の心の移り変わりを、小林虎之介が情感たっぷりに演じていた。大きな反響を呼んだ『宙わたる教室』の放送から1年、さらなる成長を遂げてNHKのこの枠に帰ってきた姿に思わず胸が熱くなった。