なにわ男子×INI×FANTASTICSが彩る『ロマンティック・キラー』 個人の“好き”を祝福する傑作

 本作がメインテーマとするものは、タイトルからもわかる通り“恋愛”である。恋愛に価値を見出さない主人公・杏子と、恋愛をエネルギー源とし、恋愛至上主義を体現する存在・リリ(髙橋ひかる)は対立し勝負をすることになる。杏子はリリによって「ロマンティックコメディの主人公」に仕立てあげられるのだが、彼女はそれを拒絶し、“恋愛”ではなく“アガペー”とされる「好き」を周囲に真っすぐ伝えてまわる。

 ここでは“恋愛”の色に侵食された「好き」ということばを取り戻す試みがなされているといえるだろう。たとえば「好きなひと」と言ったとき、それは自然と「恋愛的に好きなひと」ととられてしまいがちだ。しかし「好き」の感触は恋愛的なものだけではなく、たとえば友愛、家族愛、尊敬、執着などここであげきれないほどさまざまにあるはずだ。

 このような「好き」のグラデーションを捉えるうえで有用な概念としてスプリット・アトラクション・モデル(split attraction model、SAM)がある。これは英語圏のアセクシュアルコミュニティを中心に定式化されたとされるもので、直訳すれば「惹かれを切り分けるモデル」になる。原語としてはとくに性的惹かれと恋愛的惹かれを区別する意味で使われることが多く、「恋愛的に惹かれるが性的には惹かれない」「性的には惹かれるが恋愛的には惹かれない」などといったこれまで輪郭の曖昧だった感触の言語化に貢献してきた。もちろん“惹かれ”には、恋愛的/性的以外のニュアンスも多分にあるが、それらを切り分けて考えること──とりわけ恋愛的な意味に絡めとられがちな「好き」ということばをべつの“惹かれ”として再考してみることには、挑戦の価値があるだろう。

 恋愛的ではない「好き」をことばにして伝えるむずかしさは現代を生きるなかでは痛感することだ。たとえば友達に「好き」と言うことの“重さ”や恋愛的ニュアンスに勘違いされる可能性などを加味すれば、言わないという策に逃げてしまいたくもなるし、加えていまだ異性愛規範の強い日本においてはとくに異性に対して「恋愛的ではない『好き』」を伝えることには困難が付きまとう。しかし杏子はその困難を乗り越え、自分に好意を向けてくれたすべてのひとびと──ここでは恣意的に全員が男性であるが──に、「好き」を言葉にして贈る。「ロマンティック・キラー」は恋をしないし、独占的で最優先事項とされる恋愛関係の契約をだれかと結ぶわけでもない。ただ、自分の感じた「好き」はきちんとことばにして伝えるのだ。このラストには、だれもが好きなひとに「好き」と言える世界への希望が満ちている。「だれもが好きなひとに『好き』といえる世界」という言い回しは同性への恋愛的/性的な好意の文脈において用いられることが多いが、もう一段階おし広げて恋愛の枠組じたいを脱臼させた「好き」のグラデーションを認める世界が目指されることで、より多くのひとびとが生きやすくなるのではないだろうか。

 杏子は、恋愛至上主義を体現したリリと敵対し、恋愛をしない結末を選んだ。特定のひとりを選ばず、好意をオープンに開示する——それはたったひとりの相手と独占的な関係を契約する閉じた関係すなわち恋愛関係とされるものの真逆をいくといえる。代入不可能でかけがえのない関係性をとりむすぶうえでの恋愛という枠組の排除≒「彼氏/彼女/恋人etc.」と名づけない関係の構築は、近年注目されるようになってきたアセクシュアル/アロマンティック(Aro/Ace)とも共鳴するものがあるだろう。ここ数年でもAro/Aceを主人公とした作品として『恋せぬふたり』(2022年/NHK総合)や『そばかす』(2022年)、『HEARTSTOPPER ハートストッパー』(2022年〜)などが発表されている。自身もAro/Aceであると公言する歌人・小説家の川野芽生は、恋愛をしないという生きかたについてこのように語っている。

何かを「しない」というのも、「した」人にはわからない経験であるはずだ。  恋愛をしてみなければわからないと言うのなら、あなたも「恋愛をしない」経験(一時的に恋人がいない、とかではなく、恋愛をしない人間として生きること)をしてみたらそっちの方が向いていることがわかるかもよ、と言いたくなる。
(川野芽生『AはアセクシュアルのA 「恋愛」から遠く離れて』(リトルモア、2025)p.34)

 恋愛はしなければならないものでもなければ、控えるべきことでもない。みずからが心地よく感じられる「好き」を表明できる世界を祝福する『ロマキラ』の物語は、観客ひとりの人生という物語を自分らしさに満ちたものへと変容させる力をもっているはずだ。

参考
大森美佐『現代日本の若者はいかに「恋愛」しているのか 愛・性・結婚の解体と結合をめぐる意味づけ』(晃洋書房、2022)
川野芽生『AはアセクシュアルのA 「恋愛」から遠く離れて』(リトルモア、2025)
松浦優『アセクシュアルアロマンティック入門 性的惹かれや恋愛感情を持たない人たち』(集英社新書、2025)

■公開情報
『ロマンティック・キラー』
全国公開中
出演:上白石萌歌、高橋恭平、木村柾哉、中島颯太、髙橋ひかる、伊藤俊介、上坂樹里、森香澄、本多力、藤堂日向、津田健次郎(声)、内藤秀一郎、豊田裕大、藤原丈一郎、佐藤大樹、與那城奨、竹財輝之助、白濱亜嵐
監督:英勉
脚本:山岡潤平
音楽:橋本由香利、睦月周平、設楽哲也
ミラクルテーマソング:なにわ男子「Never Romantic」(ストームレーベルズ)、アオハルテーマソング:INI「True Love」(LAPONE ENTERTAINMENT)、キュンラブテーマソング:FANTASTICS「ずっとずっと」(rhythm zone)
原作:百世渡『ロマンティック・キラー』(集英社『ジャンプコミックス』刊)
制作プロダクション:TOHOスタジオ、ダブ
配給:東宝
©2025「ロマンティック・キラー」製作委員会 ©百世渡/集英社
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