なにわ男子×INI×FANTASTICSが彩る『ロマンティック・キラー』 個人の“好き”を祝福する傑作

 なにわ男子、INI、FANTASTICSがトリプル主題歌を務めた豪華絢爛な映画『ロマンティック・キラー』(以下『ロマキラ』)が公開された。クアトロ主演として上白石萌歌、高橋恭平(なにわ男子)、木村柾哉(INI)、中島颯太(FANTASTICS)がスクリーンを彩る。

 主人公・星野杏子(上白石萌歌)はゲームが大好き。ゲームをしながらチョコレートをつまみ、猫を撫でる。この3つを繰り返すばかりの日々を送っていた。そこにリリという謎の魔法使いが現れる。魔法使いたちは人間の“恋愛エネルギー”を糧としており、杏子の体たらくな暮らしによって魔法界のエネルギーは枯渇してしまっていた。そんな状況を変えるべくリリはゲームに明け暮れる杏子に恋愛をさせようとやってきたのであった。かくして絶対に恋愛をさせたいリリと、絶対にいまの生活を手放したくなく恋愛なんてしたくない杏子の勝負がはじまる。リリが仕掛けるさまざまなロマンティックな試練に杏子は勝てるのか──。(※以下、ネタバレあり)

 本作の魅力のひとつが、俳優陣のみせるこれまでとは一味違った演技の数々である。香月司を演じた高橋恭平といえば『なのに、千輝くんが甘すぎる。』(2023年)や現在シーズン2の放送を控える『ストロボ・エッジ』(2025年〜/WOWOW)など、寡黙で感情を表に出さない孤高の王子さまのような配役が多かった。今回もクールな転校生という役柄ではあるものの、以前の役よりもその心の壁は低く、友達と笑い合う姿も見せるようなキャラクターだ。高橋がこれまで恋愛作品で見せてきた表情とはまた違う、やわらかく友好的な雰囲気を発見することができる。また本作終盤ではトラウマを抱えていることが明かされ、フラッシュバックに襲われる様子も好演している。

 速水純太役の木村柾哉はINIのドキュメンタリー映画『INI THE MOVIE「I Need I」』(2025年)のなかでリーダーとしての責任感をみせたことが記憶に新しく、この映画のなかには『ロマキラ』撮影時の様子も含まれていた。初主演映画『あたしの!』(2024年)ではさわやかな学園イチの王子さまを演じ、だれにでもやさしい好青年のイメージを確立させた。もちろん本作でもその好青年らしさは保持しているものの、野球部の幼なじみということもあってか“さわやかさ”以上に“実直さ”が強調された役どころである。

 小金井聖役の中島颯太は『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(2024年/東海テレビ・フジテレビ系)でゲイの青年・大地を演じた。大地はだれにでもフラットに接することができる柔和な人物でありながら、伝えるべきことははっきりと言葉にして伝える人物である。そのようなやさしげでかつ毅然としたイメージから一転し、『ロマキラ』での中島は高飛車な御曹司という小金井を演じている。「ごめんなさい」という言葉すら使ったことがないほど世間慣れしておらず、だれにでも高圧的に接する小金井の好演は、『おっパン』での中島のイメージをすっかり忘れさせてしまうほどだった。

 三者三様にこれまでのスクリーン上での印象を払拭するような新しい役どころに挑んでいる。3人の過去作もあわせて鑑賞するとその違いが楽しめるだろう。

 『ロマキラ』のもうひとつの側面として、監督・英勉の集大成という見方ができる。英が過去作で培ってきた映画的表現の数々が本作のなかにはちりばめられている。まず、英映画の特徴ともいえる大衆が入り乱れる場面──とくにかれらが“激突”するシーンである。この“激突”は劇中3度登場する──杏子を好く男たちの襲撃、演劇中のストーカー襲撃、別世界線の杏子との闘いで大衆は激突する。まるで『アベンジャーズ/エンドゲーム』の最終決戦のような、両者が雄叫びをあげながら激突する、劇的で迫力のある“激突”シーンは英の過去作にも頻出するイメージである。

 たとえば『東京リベンジャーズ』シリーズ(2021年〜)ではヤンキー映画という特性もあって、敵対する集団同士の喧嘩でしょっちゅう“激突”が起こる。人間の塊が波となって押し寄せ、その波同士がぶつかり合うことでその“激突”は個人個人の闘いへと分散される。またドラマ『映像研には手を出すな!』(2020年/MBS・TBS)の予算審議委員会での暴動の場面でも、乱入してきた部活動の学生たちと生徒会とがもみくちゃになりながらぶつかり合う。

 英映画の“激突”シーンに特徴的なのが、カメラが追うメインの人物を中心に据えつづけながらも、いわゆるモブと呼ばれる人間たちも多くがフレームに収められている点である。常に画面は手前から奥まで大量の人間で埋め尽くされており、その立体的な撮影には大衆描写のリアリティが備わっている。そのフレーム内の人間の多さに反して、観客がだれを視線で追えばよいのかを明確にした撮影技術は瞠目に値する。このような大衆をリアルかつ明快に撮る技術は英映画に通底しており、『ロマキラ』においても上述した3つのシーンで活かされている。

 また“メタ性”や“ジャンル横断性”も英が過去作を通じて挑戦してきた要素のひとつである。SnowManのメンバー9人が主演を務めた『映画 おそ松さん』(2022年)は、自分たちがアニメを原作とした実写映画の出演者であることを自覚した、メタフィクション性に満ちた一本である。『ロマキラ』もまた主人公の杏子は、自身がリリによって操作された世界=ロマンティックコメディの世界にあることを自覚している(しかし周囲の人物らはそれを知らない)。自分だけが置かれた世界のフィクション性に気づいているなかで杏子は「ロマンティック・キラー」を自称し、ロマンティックフィクションへの反抗を示すのだ。

 “メタ性”はマルチバースへとつながってゆく。『映画 おそ松さん』での六つ子たちは自由に物語を書き換えられることを発見し、好き勝手に過去を書き換え、それに連なる現在までをも変化させてしまう。複数のありえたかもしれない現在を行き来するような展開は、多元宇宙の存在を予感させる。『ロマキラ』においても終盤、だれそれと付き合った場合の杏子が何パターンも現れる。ドラマ『ロキ』(2021年〜)以降のMCUや『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年)など近年のアメリカ産ブロックバスター映画で頻繁に用いられるマルチバースの概念をも取り入れることで、ひとつひとつの選択によって世界が分岐し、かけがえのない現在がかたちづくられていることを実感させるつくりになっている。
 
 『映画 おそ松さん』とのもうひとつの共通点として、さまざまなジャンルを横断するという点があげられる。『ロマキラ』で杏子に襲いかかるロマンティックの数々として『スピード』(1994年)やドラマ『愛の不時着』(2019年/Netflix)、『刀剣乱舞』などのオマージュが登場する。また杏子が「ロマンティック・キラー」を名乗るバトルアクションシーンでは、一見では到底拾いきれないほど大量の映画・ドラマ・アニメからの引用が氾濫する。一方『映画 おそ松さん』では、養子の座を奪い合う六つ子たちがそれぞれ多種多様なジャンルの世界観を生きることになる。ひとりが淡い恋愛映画を生きる傍、『カイジ』のような賭博映画が始まり、その傍では雷に打たれてまるで黒澤明作品のような白黒映画の世界へと転生するキャラクターも存在する。観客が“元ネタ”を探す楽しみはもちろんのこと、出会うはずのなかった他ジャンルが交わることによる化学反応もそこかしこで起こっている。

 あるいは他作品のオマージュを散りばめるという点では英監督の過去作『ぐらんぶる』(2019年)の延長線上にあるといえるかもしれない。『ロマキラ』と『ぐらんぶる』では共通して、階段ですれ違った男女が「君の名は」とつぶやく新海誠オマージュが用いられており、『ロマキラ』ではさらに最新のネタとして杏子が「戸締まり」する場面まである。
英勉ファンだけでなく、『ロマキラ』が気に入ったかたにはぜひ彼の過去作も追ってみてほしい。『ロマキラ』へとつながる要素が、わたしが気づいたもの以外にもたくさん見つけられるだろう。

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