2025年の年間ベスト企画
宇野維正の「2025年 年間ベスト映画TOP10」 パーティーの邪魔をするな
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2025年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2025年に日本で公開・配信された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第17回の選者は、映画ジャーナリストの宇野維正。(編集部)
1. 『罪人たち』
2. 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
3. 『アフター・ザ・ハント』
4. 『F1/エフワン』
5. 『エディントンへようこそ』
6. 『ワン・バトル・アフター・アナザー』
7. 『ブルータリスト』
8 劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
9. 『WEAPONS/ウェポンズ』
10. 『か「」く「」し「」ご「」と「』
昨年のアワード関連作からの選出は2本(『名もなき者』『ブルータリスト』)にとどめたが、『アイム・スティル・ヒア』や『ANORA アノーラ』も入れるかどうか迷った。つまり、2025年の映画界は不作の年(テレビシリーズはさらに深刻)だったと言っていい。今年に入ってからの北米公開作に限るなら選出した6作のうち4作がワーナー作品。そのワーナーは来年以降、どこかのタイミングでNetflixのコントロール下に置かれる可能性が濃厚。次の『007』が公開される頃までにはAmazon MGM作品の世界配給網(『アフター・ザ・ハント』の日本公開は当たり前のように見送られた)も出来上がっているはず。今年、オールドメディアでの仕事では国内における洋画カルチャーの衰退について書いたり語ったりする機会が多かったが、世界の映画界産業全体を取り巻く環境の変化はそんなレベルではなく加速している。移民問題とジェンダー・ポリティクスとナチスと作家の自伝的ノスタルジーを扱った作品(それらの多くは国からの資金援助を受けている)以外ほとんど国外輸出されることがなくなったヨーロッパ映画の状況を尻目に、そこで日本のアニメーション作品が主役の一端を担うであろうこともますます現実味を帯びてきた。
右からにせよ左からせよ、第2期トランプ政権が最後にとどめをさした「文化戦争の終わり」(『アフター・ザ・ハント』)の影響が作品にダイレクトに表れてくるのは2026年以降となるわけだが、そういう意味ではなんとも中途半端な時期だったのが2025年で、それを象徴する出来事がポール・トーマス・アンダーソン作品にしては煮え切らない出来映えの『ワン・バトル・アフター・アナザー』への絶賛の声とアワードの席巻だろう。時代の激流の中で戸惑っているのは、作り手だけでなく批評家や観客も同様ということか。
今カルチャーのシーンで起こっているのは政治的な分断などではなく、煙草の煙とガソリンの匂いを振り撒きながら腹を括って未来の世界へとアクセルを踏んだ者たちと、2010年代(あるいはそれ以前)に取り残された者たちとの間にある視座の大きな違いだ。ライアン・クーグラーに続いて、アイデンティティ・ポリティクス時代の遺産であるエメラルド・フェネルやグレタ・ガーウィグが、2026年に鮮やかなアンサーを叩きつけてくれることに期待したい(それが驚くほど「保守」的な作品であっても自分は驚かない)。我々はもっと胸をはって「パーティーの邪魔をするな」(『罪人たち』)と言っていい。DREAM BIG。