2025年の年間ベスト企画
児玉美月の「2025年 年間ベスト映画TOP10」 既知のジャンルや旧作をふたたび鋳直す映画体験
長らく日本では劇場公開されてこなかったフランスの映画作家アラン・ギロディの作品が、2025年一気に日の目を浴びた。もっとも優れた作品としてはギロディの現時点での最新作にあたる『ミゼリコルディア』が妥当であろうが、個人的には軽やかなコメディタッチでイスラム嫌悪や排外主義などを寓話へと昇華した『ノーバディーズ・ヒーロー』をあえて今ベストの一本に挙げたい。日本でも知名度の高いギロディの名作『湖の見知らぬ男』が、ふたたびこの機会にスクリーンにかかったこともあわせて嬉しい。2025年は、旧作のリバイバル上映がますます活況を呈した。『もののけ姫 4Kデジタルリマスター』、『七人の侍 【新4Kリマスター版】』、『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』はどれも映画館が老若男女で溢れ返り、一種のお祭りのような熱気を肌で感じながら昨今のリバイバルブームの勢いを再確認した。
10位に選んだ『ベイビーガール』は、年下のインターン生と関係を持つベンチャー企業のCEOをニコール・キッドマンが好演。監督を務めたハリナ・ラインは、ポール・ヴァーホーヴェン監督の『氷の微笑』をはじめとする90年代エロティックスリラーを、現代において換骨奪胎しようとしたという。したがって性的に逸脱した女性が罰される結末は周到に回避され、欲望を肯定するような作品に仕上がっている。ほかにも「エマニエル夫人」を再解釈した官能映画『エマニュエル』、ルッキズムやエンタメ業界を風刺したボディホラー『サブスタンス』、終盤で怪獣映画さながらの(?)トンデモ展開が待ち受けるスリラー『愛はステロイド』は、どれも女性の映画作家が手掛けているが、独自の強い個性を放ちながら、それぞれのジャンルを別の角度から刷新しようとした意欲的な映画だった。『エマニュエル』のオードレイ・ディヴァンは性体験や生殖の権利が、『サブスタンス』のコラリー・ファルジャはメイルゲイズによる女性身体の捉え返しが、『愛はステロイド』のローズ・グラスはレズビアンの生へのまなざしが過去作から作家性として一貫してあり、今後も生み出されていく作品たちをその連続性のなかで観ていきたい。
既知のジャンルや旧作を、この時代の複雑化した社会の網目にふたたび鋳直すこと──それが2025年における極私的な映画体験のテーマだったように思う。