『波うららかに、めおと日和』2025年大ヒットの必然 “ヒットメイカー”平野眞が語る現在地
12月24日にフジテレビ系で放送され、TVer・FODで配信中のスペシャルドラマ『ドビュッシーが弾けるまで』。演出を手がけたのは、『ショムニ』『やまとなでしこ』『HERO』など、フジテレビを代表する名作ドラマを世に送り出してきた平野眞だ。
2025年には『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)で純度の高いラブコメディを作り上げ、数々の賞を受賞するなど大きな話題に。胸キュン作品から、人の心の奥をすくい取るドラマまで、その幅はどこから生まれているのか。多彩な演出の源を聞いた。
主題歌「夢中」から逆算した演出
――今年はなんといっても、『波うららかに、めおと日和』が大ヒットしました。
平野眞(以下、平野):たくさん応援いただいて、本当にありがたいです。ロケに行くと一般の方から「頑張って」と言ってもらえることが本当にありがたくて。結果的に、たくさんの方に観てもらえる作品になったので、うれしいですね。
――最近は考察ドラマが話題になることが多い中、ここまで純粋にキュンキュンさせてくれるドラマに「これこれ!」と思いながら観ていました。
平野:お互いに名前を呼び合うまでに、10分くらいかけてますからね(笑)。撮っている最中にも、「俺は何やってるんだろう(笑)」と思うときもありましたけど、とにかく突き抜けようと。手が触れただけで「キャッ」となるくらい、それぞれがリアクションを大きめに取っていこうと、芳根(京子)さんと本田(響矢)さんとは話していました。
――もちろんリアクションもその一つだと思いますが、『めおと日和』を演出する上で軸にしていたのはどんなところですか?
平野:主題歌(BE:FIRSTの「夢中」)がすごくよくて……。「これは大事にしなきゃいけない」という感覚があったので、「いいところでこの曲を使おう」と意識していました。歌詞も台本をなぞってくれている部分もあったので、“歌詞を見て、もう一回確認する”という作業をするのが楽しかったですね。あまりに主題歌が好きなので、最終回では役者さんに歌詞をしゃべってもらって、歌に合わせてセリフを言っているかのような映像に仕上げたんです。それをこっそり放送して、「どのくらい気づくのかな」という遊びもやらせてもらいました。結局、(放送後に)SNSですべてバラされちゃいましたけどね(笑)。今回は広報活動も含めて大事だと思っていたので、みんなと協力しながらできてよかったです。
――SNSを中心とした宣伝活動にも、戦略的に力を入れていたわけですね。
平野:なるべく面白いものを提供したいので、僕は無理してでもSNS用動画を撮った方がいいと思っている派なんです。たとえば戸塚(純貴)さんの撮影があるとがたまに来ると、面白おかしくしたいじゃないですか。彼は全部で4話くらいしか出ていないのに、レギュラーみたいな顔をしてそこにいるんですよ。「いや、あなたは準レギュラーだから」って僕はずっと言い続けていましたけどね(笑)。でも、彼が来たときには本番前のリハーサル時にもいろいろなことを言ってもらったりして。「これはおいしいだろうな」と思うものはなるべくたくさん撮りましたし、それをSNS担当のスタッフがちゃんと拾ってくれました。
俳優の飛躍を間近で見る喜び
――本作で本田響矢さんが大ブレイクされましたが、ご自身が演出した作品で俳優さんが飛躍するというのは、どんなお気持ちでしょうか?
平野:やっぱりうれしいですよね。この間、『FNS歌謡祭』に行ったら(本田さんが)黒髪から金髪になっていたので、「変わらないでね」とだけ伝えました(笑)。たとえば“ウエイター1”くらいの人がスターになるとさらにワクワクします。ずっと前ですが、妻夫木聡さんがそうなんですよ。『お水の花道~女30歳ガケップチ~』(1999年/フジテレビ系)というドラマで、ウエイター役で端の方にいたんですが、僕と財前直見さん、戸田恵子さんで、「あの子面白いね」という話になって、極力お芝居をしてもらいまいた。僕が次に会ったときには、彼が主演のドラマ(『スローダンス』2005年/フジテレビ系)でした。あのときはすごくうれしかったですね。
本田響矢の大ブレイクは“必然”だった 『めおと日和』瀧昌さまに集約された2つの個性
新しいスターが次々と生まれる連ドラの世界。この春、最もブレイクした俳優として多くの人が名を挙げるのが本田響矢だろう。木曜劇場『波…――これだけの人気作なので、『めおと日和』の続編を期待する声も大きいと思います。
平野:どうなるかは分かりませんが、あのドラマはやっていて面白いんですよ。“どうやったら恥ずかしいか”を考えて、ムズムズしながら撮るっていう(笑)。今とはまた全然違う世界で、スマホがない、テレビがない。恋愛ドラマにおいて、こんなに最高な環境はないですよね。
――監督から前向きな言葉が聞けただけでもうれしいです。でも、ドラマの続編って意外と少ないんですよね。
平野:そうかもしれないですね。そういう意味では、吉沢(亮)さんが『国宝』でさらにスターになっちゃったじゃないですか。僕は『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)でずっと一緒にやっていて、「またスペシャルをやりたいね」なんて話をしていたんです。でも、「各局引っ張りだこ」みたいな記事も出ていましたね……(笑)。『監察医 朝顔』(フジテレビ系)は第2シーズンが2クールあったので、スペシャルを含めると全40話近いんですよ。それでも、やっぱりまた続編をやりたい作品ではありますね。
『監察医 朝顔』が年始に放送されたあまりに大きな意義 上野樹里の名演が“記憶”を繋ぐ
上野樹里が主演を務める『監察医 朝顔』(フジテレビ系)が、『監察医 朝顔2025新春スペシャル』として約2年ぶりに帰ってきた。 …――まさに『PICU』と『朝顔』は、近年、私が泣いたドラマベスト1位、2位なんです。その監督と、『めおと日和』の監督が同じだというのが、少し不思議な気もしていて。
平野:やっぱり脚本や原作がいいんですよ。圧倒的にいいので、それはちゃんとリスペクトしなきゃいけないし、僕はそんなに大きなことをしているつもりはないです。ただ、役者さんに「やりづらい」と言わせないようにしたい、とは思っていますね。無理やりのお芝居って、絶対によくはならないから。その辺のアイデアは出せますけど、基本は脚本なので、本を作る段階でちゃんとみんなで向き合うこと。それが成功するか、失敗するかは別の話ですけどね。演出って、自分のやりたいことだけをやると失敗するんですよ。とくにテレビドラマはみんなで作るものなので、映画とはまた違うんですよね。
――でも、きっとそこが面白さでもありますよね。
平野:そうですね。最終的にはもちろん責任を取らなきゃいけないので、「じゃあこうしよう」という判断は僕がしています。でも、その過程でいろんなアイデアが出てくるのは、すごく面白いなと思います。