『ぼくたちん家』はドラマ界に“革命”を起こした 及川光博と手越祐也が成立させた人物像

 12月14日に最終回を迎えた『ぼくたちん家』(日本テレビ系)は、ドラマ界に“革命”を起こした作品だった。2016年に『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)が大ヒットしてから、いわゆる“BLドラマ”と呼ばれる作品は量産されてきたが、どれも深夜帯を中心とした放送に留まっていた。そんななか、『ぼくたちん家』はGP帯という放送枠で男性同士の恋愛をメインに据え、登場人物たちの人間ドラマまでも描いた。

 最終回、玄一(及川光博)と索(手越祐也)の前に、ほたる(白鳥玉季)のギター作りの師匠である岸部康夫(井上肇)の孫・和樹(柊木陽太)が現れる。自分がゲイであることを自覚した和樹は、「僕のまわりには(ゲイの人が)誰もいない」「誰にも相談できない」という孤独感を抱いていた。しかし、玄一と索に出会い、「僕と同じ人が本当にいるんだなって。そう思ったら、少しだけ気持ちがラクになりました」と言えるようになった。わたしは、和樹のこの一瞬の微笑みに触れたとき、「テレビの前の視聴者にも、彼と同じように安堵を覚えた人がいるんじゃないか?」と思った。

 第1話で、玄一が「(ホームランバーが)当たらないのは、男の子を好きになっちゃったからだって思ってた。いけないことだから、神様も当ててくれないんだって……」と過去の思い込みを振り返っていた場面がある。これは、玄一がゲイであることの葛藤を誰にも相談できないままひとりで抱えてきていたからだ。玄一も、「僕と同じ人が本当にいるんだなって」と思える存在を、もっと早い段階で見つけていたら。学生時代に、『ぼくたちん家』のようなドラマに出会えていたら――あの罪悪感は、もっと早く手放すことができていたかもしれない。

 また、本作は社会的な意義を持つ作品でもあった。作中に、ほたるが「この世の中に、わたしには関係ないものなんてないのかもって、そうやって思っていたら、わたしも優しい人になれるかな」と語る場面があったが、『ぼくたちん家』には、“他人ごと”として片付けてしまいがちな出来事を、静かに“自分ごと”へと引き寄せてくれる仕掛けが、随所にちりばめられていた。

 とくにわたしが感動したのは、ドラマの公式サイトに「玄一や索のような人のことをもっと知るためのコーナー」が開設されていたことだ。このコーナーは、インクルーシブプロデューサーでゲイ当事者の白川大介氏が、「ゲイってどんな人?」という初歩的なものから、「誰にカミングアウトするかしないか、どう決めてるの?」「いつ頃、自分がゲイだって気づくの?」といったディープな質問にまで丁寧に答えていくもの。身近な人にはなかなか聞けないことを、誰かを傷つけることなく安心して知ることができる機会を、ドラマの外にも用意してくれているのが素敵だなと思った。

 そして、本作の魅力を語る上で欠かせないのが、及川光博と手越祐也の演技の凄みだ。及川も手越も“王子様キャラ”のイメージが強いため、“冴えない”や“素朴”といったワードはあまり結びつかない部分があった。しかし、本作における2人は、どこにでもいる“不器用な大人”として画面のなかに立ち、特別な存在ではなく、わたしたちのすぐ隣にいそうな人物像を成立させていたのだ。むしろ、王子様を背負ってきた彼らだからこそ、その華やかさを削ぎ落としたときに残る人間味が、より際立つのかもしれない。

 物語のラスト、玄一と索は婚姻届を提出しに行く……という小さな革命を起こした。現在の日本では、男性同士の結婚は法的に認められていない。彼らもその現実は承知の上で、役所に向かう。結局、受理されることはなかったが、職員は玄一と索の気持ちにしっかりと向き合い、「今日、お二人がいらっしゃったということは、きちんと各所に報告します」と告げる。この言葉は、彼らの小さな革命が社会のどこかに影響を与えていくのだという静かな希望を感じさせるものだった。

 そして、玄一と索は「婚姻届出せるようになるまで、一緒にいましょうね」と誓い合う。彼らの革命の続きは、わたしたちがこれから生きていく社会のなかにある。そして、いつか本当に革命が起きたとき――わたしたちはきっと、玄一と索が起こした小さな革命を思い出すことだろう。そのとき、幸せそうに婚姻届を提出しに行く玄一と索の姿が見られたらうれしい。

ぼくたちん家

現代に様々な偏見の中で生きる“社会のすみっこ”にいる人々が、愛と自由と居場所を求めて、明るくたくましく生き抜く姿を描くホーム&ラブコメディ。

■配信情報
『ぼくたちん家』
TVer、Huluにて配信中
出演:及川光博、手越祐也、白鳥玉季、田中直樹、渋谷凪咲、坂井真紀、光石研、麻生久美子
脚本:松本優紀、渋谷凪咲、田中直樹
演出:鯨岡弘識、北川瞳
インクルーシブプロデューサー:白川大介
チーフプロデューサー:松本京子
プロデューサー:河野英裕、西紀州、岡宅真由美
音楽:東川亜希子、神谷洵平
主題歌:「バームクーヘン」
制作協力:AX-ON
©日本テレビ
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