『ばけばけ』髙石あかり×下川恭平の“すれ違いコント” ヘブンの気持ちにも変化?

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第10週「トオリ、スガリ。」第50話では、トキ(髙石あかり)と小谷(下川恭平)が約束のランデブーへと向かう。先週の第9週「スキップ、ト、ウグイス。」ではヘブン(トミー・バストウ)とリヨ(北香那)のランデブーから、トキの心情の変化を描いていたが、第10週ではそれと対照的にトキと小谷のランデブーが気になるヘブンが印象的だ。

 小谷がトキを誘ったのは、本作ではもはやお馴染みの清光院。怪談「松風」の舞台としてだけでなく、トキにとっては傳(堤真一)や銀二郎(寛一郎)との思い出が詰まった大切な場所だ。何度来ても良い。季節や時間、そのときの心情、一緒にいる人。寂しさ、哀しさ、切なさを残しながら、訪れる度にまた新たな表情を見せてくれる。トキは小谷なりの“感じる何か”を見つけ、教えてほしかった。

 現代で言う“オタク”のそれのように高ぶっていくトキに反して、小谷の気持ちは冷めていく。借りていた怪談本を読み、トキの好きそうな清光院を調べ、謡曲の「松風」までをも練習してきた小谷。インターネットのない明治時代にここまで勉強してくるのは、松江中学の生徒というより、トキへの恋心が本物であることを感じさせるが、如何せん不器用が過ぎる。

 怪談の価値が分からず、「私にはついていけません」「時間の無駄です」とトキを突き放すどころか、相手の好きな気持ちを否定までしてしまう。言葉のないトキは、「私は好きだけん」と自分の気持ちを保とうとするが、その言葉までも怪談ではなく、小谷は自身への思いだと勘違いし、ズンズン走り去っていってしまう。もう一度言うが、本当に不器用過ぎる。すれ違いコントの先で、松風の幽霊が本当に現れる(?)というトキにとっては情緒がおかしくなりそうな怒涛の展開の中でも、それを受け手して自然に見せる髙石あかりの芝居が改めてスバラシ。

 トキの小谷とのランデブーが気になってしょうがないヘブン。「コタニ、タノシ、アリマシタカ」というヘブンの問いかけに、トキは「ノー。ありませんでした」と返した。トキに何か言いかけては、ヘブンは「ナンデモナイ」と咄嗟に誤魔化す。「フフ……」とヘブンは自身の気持ちの変化に気づきつつあるのだろうか。夕陽の空を眺め、物思いにふけるヘブン=トミー・バストウの表情が視聴者の想像を掻き立てる。スバラシ。

 英語教師としての期間ももう少しで終わりを迎えようとしているヘブンは、執筆している滞在記について「何か良いテーマはないか」と「アト、ヒトツ」とつぶやいている。ふと気づくのは、第1話冒頭で描かれてもいる怪談にヘブンがまだ出会っていないこと。ヘブンであればおおはしゃぎで“感じる何か”を伝えてくれそうな清光院にもまだ訪れてはいない。少し苦い思い出が残ってしまったトキにとっての清光院を上書きしてくれるのはヘブンなのではないだろうか。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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