是枝裕和が『ルックバック』を撮ることの意義 世界にリーチする“文学マンガ”の可能性

 藤本タツキのマンガ『ルックバック』が、2026年に実写映画化されることが明らかとなった。メガホンを取るのは、世界的な知名度を誇る映画監督・是枝裕和だ。この類まれな才能の組み合わせから、一体どんな作品が出来上がるのか……。現在公開されている情報をもとに、考察を膨らませてみたい。

藤本タツキ原作漫画『ルックバック』2026年公開で実写映画化 監督・脚本・編集は是枝裕和

漫画家・藤本タツキの漫画『ルックバック』が監督・脚本・編集に是枝裕和を迎え、実写映画化されることが決定。あわせてティザービジュア…

 『ルックバック』は藤本が『チェンソーマン』第1部の連載終了後、2021年7月に『少年ジャンプ+』で発表した読み切り作品。公開直後から大きな話題を巻き起こし、『このマンガがすごい!2022』オトコ編の第1位に輝いた。また2024年6月には劇場アニメが公開され、興行収入20億円を超えるヒットを記録したことも記憶に新しい。

『ルックバック』原作書影©︎藤本タツキ/集英社

 あらすじとしては、藤野と京本という2人の少女たちが「マンガを描く」という行為を通じてつながり、仲を深めていく物語。思わぬ事件によって運命を翻弄される2人の姿を通して、創作の喜びや苦悩、葛藤を描き出している。

 それに対して是枝は、国内のみならず海外でも高く評価されている映画監督。カンヌ国際映画祭などで、錚々たる賞に輝いてきた。では是枝と『ルックバック』の相性はどうかといえば、いくつもの点で相乗効果を期待できそうだ。

“子どもの生”を描くことに定評がある是枝裕和

是枝裕和 ©瀧本幹也

 まず注目すべきは、是枝が“子どもの生”を描くことに定評があるということ。たとえば2023年の映画『怪物』は大人には話せない悩みを抱えた2人の少年をめぐる物語で、大人から見た子どもの姿が幻想に過ぎないことを容赦なく突き付ける構成となっていた。

 ほかにも『誰も知らない』と『万引き家族』といった代表作では、壮絶な環境のなかで生き延びる子どもたちの姿を迫真のリアリティで描いている。『ルックバック』は大人が介入せず、子どもたち自身の目線で進んでいく物語なので、大人による幻想の押し付け抜きで子どもを描ける是枝にふさわしい題材ではないだろうか。

 また是枝が『ルックバック』の監督を務めることについて、まったく別の文脈からも評価できる。そもそも海外でマンガ・アニメが評価される際には、「商業性の強い娯楽作品」もしくは「作家性が重視されるアート」という枠組みで捉えられることが多い印象。それに対して日本のマンガ・アニメは手塚治虫以来、しばしば“娯楽とアートのあいだ”にあるものとして制作されてきた。

 藤本もまさにその系譜にあり、ジャンプ作家でありながらある種の文学性を伴った作品を生み出している。『ルックバック』には、そんな藤本の作風がとくに色濃く表れていると言っていいだろう。

 だとすれば海外で小津安二郎と比較されるようなポジションの是枝監督が実写化を手掛けることで、サブカルチャーの文学性という日本特有の文脈を理解してもらう絶好のチャンスになるのではないだろうか。

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