『ばけばけ』の画面はなぜ暗い? 照明とリンクする髙石あかり×トミー・バストウの心情
光があるからこそ、この世界には影ができる。しかし、影の暗さに目が慣れてきたときこそ、差し込む光は一際眩しく映し出される。常に日陰で暮らしていたトキは、この世界を恨めしく思っていた。そんな彼女の暗澹たる気持ちを、家族の団欒や仲の良い友人との会話が照らし出す。映像を支配している暗さは、彼女が置かれた環境であり、その心中を光の加減で視聴者に伝えてくれる。
ヘブンもまた、日本で“異人”としていつまでも物珍しく扱われる現状にやるせない感情を抱いていた。異国で暮らすなかで感じるモヤモヤとした違和感や沈んだ気持ちが、ヘブンの住んでいる家の中にも投影されているのではないだろうか。特に彼が夜な夜な物書きをしているとき、あるいは寝室で眠りについている場面はかなり暗い。ヘブンに日本行きを勧めたイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)の写真を何よりも大切にしていることからも、彼が夜更けに感じている孤独はいまだに解消されているわけではないのだ。
そして、寝室を中心に、全体的にヘブンの家の暗さが強調されているのは、これから2人の距離を縮めることになる怪談シーンへの序章とも言える。
今後はろうそくのほのかな明かりだけを頼りにして、トキがヘブンにお互いの好きな怪談を読み聞かせる第1話の冒頭のような場面も多く登場するだろう。真っ暗な空間に波紋を広げるような寂しげな余韻は、まさにヘブンのモデルとなった小泉八雲の文学に宿る真髄。違和感なく2人の怪談トークへとつなげるための暗さであり、トキはこれから“影”の中に“光”を見出すことになるのかもしれない。
物語のベースとなる「暗さ」はそのままに、トキとヘブンの心に差し込む光が視覚的にも表現される本作。今後は登場人物たちの心情ともリンクする照明にも注目してみてほしい。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK