『ひらやすみ』は観る“エッセイ”作に 『いつか、無重力の宙で』と作り上げた“夜ドラの型”

 一方、ドラマの基調となっているのは、ヒロトを演じる岡山天音の飄々とした喋り方が生み出す、ゆったりとした時間の流れで、ヒロトの作り出す空気が本作の心地よさの根幹となっている。だが、そんなゆったりとした空気に苛立っているのが、立花よもぎ(吉岡里帆)である。

 不動産会社で働くよもぎは、多忙な日々を送っていて気持ちに余裕がない。だから肩の力を抜いて楽しそうにしているヒロトに対してイライラしているのだが、その苛立ちはヒロトには伝わらず、いつも空回りしている。実はヒロトには、俳優になる夢を諦めたという苦い挫折体験があるため、悩みが何もないわけではないのだが、そのことを知らないよもぎは、ヒロトと会うとバカにされたような気分になってしまう。

 よもぎのような、真面目に働いていて愛想が良いが、笑顔の裏側に鬱屈が漏れ出している女性を演じさせると、吉岡里帆はピカイチだ。よもぎのエピソードはどれも傑作だが、辛いことを電話で知らされたよもぎが、ヘラヘラと笑っているヒロトに「みんながみんな、あなたみたいに生きられると思わないでよ!」と苛立ちをぶつける第10話が印象深かった。

 その後、よもぎはヒロトに謝り、改めて2人は自己紹介する。正反対の時間感覚で生きている2人が今後、どのような関係を築いていくのか気になるが、残念ながら第5週で本作は最終回を迎える。

 どこで終わっても成立するエッセイのようなドラマではあるが、ヒロトとよもぎの関係や、なつみがプロの漫画家になれるのかは、最後まで見届けたいので、定期的に続編を作ってシリーズ化してほしい。

■放送情報
夜ドラ『ひらやすみ』
NHK総合にて、毎週月曜から木曜22:45~23:00放送
NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信中
出演:岡山天音、森七菜、吉村界人、光嶌なづな、蓮佛美沙子、駿河太郎、吉岡里帆、根岸季衣 ほか
ナレーション:小林聡美
原作:真造圭伍
脚本:米内山陽子
音楽:富貴晴美
音楽プロデューサー:福島節
演出:松本佳奈、川和田恵真、高土浩二
制作統括:坂部康二、熊野律時
プロデューサー:大塚安希
写真提供=NHK

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