『ばけばけ』“トキ”髙石あかりの真のライバル登場? 「たまらない、こういう展開!」
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第9週「スキップ、ト、ウグイス。」は、ヘブン(トミー・バストウ)に好意を寄せるリヨ(北香那)が初登場し、その“同志”としてタツ(朝加真由美)を慕う勘右衛門(小日向文世)という“恋する乙女”たちが軸となる物語。予告時点でリヨをトキ(髙石あかり)にとっての“ライバル”と称し、ナレーションの阿佐ヶ谷姉妹も「たまらない、こういう展開!」と視聴者を煽っていたことを思い出す。
それはリヨが言った「私のライバルなのかしら」発言がもとにあるが、トキとヘブンが後に夫妻になることを知っているというメタ視点も含まれているだろう。朝ドラでは、恋のライバル的人物が現れることで自身の恋心に気づくという展開が多くある。近年では『舞いあがれ!』(2022年度後期)がその代表例と言えるが、前作の『あんぱん』(2025年度前期)でものぶ(今田美桜)の最初の結婚相手である次郎(中島歩)が嵩(北村匠海)にとってのライバルに近いポジションにいた。
それでは今回の『ばけばけ』で、ライバルはどう機能しているのだろうか。リヨのヘブンへのランデブー大作戦は、結果的に失敗に終わる。松江で唯一の西洋建築である島根県庁を案内するものの、ヘブンが行きたかったのは錦織(吉沢亮)とトキから勧められた城山稲荷神社だった。石狐に夢中のヘブンに、リヨはご立腹でトキの元に帰ってきてしまう。
その間、トキはヘブンの家の柱にテッポウを打っていた。かつてトキが銀二郎(寛一郎)とランデブーに出かけた際に、勘右衛門をはじめ、司之介(岡部たかし)、フミ(池脇千鶴)までもが一心不乱にしていた、あのテッポウだ。しっかりと腰の入ったテッポウは松野家の“血筋”といったところだが、トキが気になるのは糸こんにゃくの入った弁当。錦織とリヨの板挟みにあっているトキは、ヘブンの嫌いな糸こんにゃくの入った弁当がきっかけでリヨが嫌われてしまうと、錦織の嘘を否定しなかったトキも責められかねない。しかし、弁当は開けられることなく、違う理由でリヨは振られて帰ってきた。
メジロ……ではなく鳩が豆鉄砲を食ったような表情でリヨの話を受け止めるトキ。その夜、トキはヘブンが描いた石狐や月照寺の大亀の中に、自分が生けた一輪挿しのツバキの絵があるのを見つける。「ハナ、スバラシ」とヘブンが夢中になる日本文化の一つに、自分がいることに嬉しさが込み上げてしまう。頬を緩めるトキは、何気なく夜道をスキップ。あれだけぎこちなく、不揃いだったスキップがいつの間にか、「タタッ、タタッ」と綺麗なリズムを刻んでいる。トキの喜びを視覚的なスキップに帰着させているのが素晴らしいが、ヘブンとのリズムや歩幅が徐々に合い始めているようにも捉えられる。主題歌の「笑ったり転んだり」には〈君のとなり歩くから 今夜も散歩しましょうか〉という一節もある。
気になるのは、リヨがプレゼントしたウグイス(正確にはメジロ)が明らかにヘブンのメタファーとして描写されていること。酔っ払ったヘブンがトキに言った「ウグイスがメジロなら、私もメジロなんだろうか」を思い出すが、ヘブンの見方、接し方というところで、今後このセリフが生きてくるように思えてならない。
結論としては、リヨというライバルの登場で、トキがヘブンへの恋心に目覚めるところまでには発展してはいない。しかし、第45話のラストでヘブンは「松江は本当に面白くて素晴らしい町だ。いつか、君と歩きたい……」とペンを走らせていた。相手はイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)。トキにとっての真のライバルとなるのは、イライザなのだろうか。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK