『ばけばけ』は今までの朝ドラとは“時間”のかけ方が違う? 「ダキタクナイ」が傑作ワードに

 外国人と日本人のディスコミュニケーションを、「洋妾」を題材に描いた朝ドラことNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第7週「オトキサン、ジョチュウ、OK?」。傑作ワードはヘブン(トミー・バストウ)の「ダキタクナイ」だった。

 ヘブンは一度も洋妾を欲しているとは言っていない。日本人が勝手に異人は洋妾を囲うものだと思い込んでいるのだ。でも過去にそういう事例がいくつもあったのだろう。それも、はっきり言うと聞こえもよくないので、「女中」という名で実は……というふうにぼかされてきたにちがいない。給金も破格に高いから、単なる女中ではないと誰もが身構える。

 そんな誤解の渦のど真ん中にトキ(髙石あかり)は巻き込まれてしまう。借金返済でお金は欲しいが洋妾にはなりたくないトキだったが、タエ(北川景子)と三之丞(板垣李光人)のために身を売る決心をした。

 花田旅館夫妻(生瀬勝久、池谷のぶえ)とウメ(野内まる)は、トキが手籠めにされないように、また、松野家の人たち(小日向文世、岡部たかし、池脇千鶴)にバレないように協力体制を敷き、松野家の人たちはトキの様子がおかしいと気づいて尾行する。こういうドタバタがおもしろい。トキが異人の妾にならないように、みんなが心配し、一致団結して協力する様子はおかしくも麗しかった。

 1週間の間に緊張と緩和の大波小波がいくつも来るように巧妙に仕掛けられている。ベースは素朴な昔話だろう。昔話には、ウワバミや鬼など村に悪さをするこわい怪物を鎮めるために、若くてきれいな女性を生贄に捧げるというようなものがよくある。ディズニーの『美女と野獣』もそういう昔話を題材にして親しみやすくロマンチックにアップデートしたものだと思う。トキとヘブンはまさに美女と野獣のムードである。でもまだふたりが恋には発展しない。ひたすらトキがヘブンに襲われないかドキドキする1週間だった。

 女中奉公初日から、トキは覚悟を決めてヘブンに向き合う。いまかいまかと緊張感マックスになると、すっと交わされる。この連続。やたらと布団を目立つように映しているスタッフも人が悪い。

 朝ドラでは問題が起こると、その日のうちに即解決、遅くとも翌日解決ということが少なくなく、あまりにあっけないと感じることがあるのだが、洋妾問題を1週間もかけたのはずいぶんと時間をとったものだ。

 なかなかことが成されない。助かったとホッとしつつ、むしろ、後になればなるほど気持ちが落ち着かない。トキもやるなら早くやれという気持ちになったことだろう。結局、松野家が家にやってきて、ヘブンを責めたことで、すべては誤解であったことがわかる。

 松江の人たちから、自分がとんでもない好色な人物と思い込まれていたことを知って驚き、必死で誤解を解こうと言葉を尽くすヘブン。でも日本語が堪能ではないため、たどたどしい言葉しか出なく、辞書を引いて言ったのが「ダキタクナイ」だった。昨今だとネットの翻訳機能が完璧ではないため、海外のネット通販のやりとりでたどたどしい日本語になっているものを読むことが増えたが、そういうものと同じだろう。

 さらに「ダキタクナイ」を受けて、フミ(池脇千鶴)が「抱きたいでしょ」と憤慨するのが最高だ。娘を洋妾にはしたくないが、「ダキタクナイ」という失礼は許さない。うちの娘は魅力的だという母心が鮮やかに出ていた。

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