『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は新たな景色を見せてくれる “名作火ドラ”との共通点

 もう一つ反省したのは、勝男みたいに先入観や固定観念が強い人は他者の意見を受け入れないと勝手に決めつけていたことだ。その思い込みは、第1話の時点で大きく覆される。後輩の白崎や南川(杏花)に自分で筑前煮を作ってみたら元カノの気持ちがわかるのではとアドバイスされ、しぶしぶながら料理を始めた勝男。すると、筑前煮が手間のかかる料理であることや、めんつゆの材料が肉じゃがの調味料と全く同じだということに気づく。やってみなければ、わからない。「男同士で弁当交換は変」という固定観念を取っ払ってみたら、白崎の作ったサクサクのエビフライが美味しかったように。その後、白崎は南川に勝男みたいな人は誰が何を言っても一生変わらないと思っていたことを明かし、「それって俺の決めつけだったかも」と話した。

 勝男は短絡的でバカだなぁと思うところもあるけれど、愚かではない。他人に間違いを指摘されて、自分を省みることができる。それはもしかしたら人として一番大事なことかもしれない。それなのに、鮎美は「勝男さんにはわからないし、わかってほしいとももう思わないかな」と理由も告げずに勝男を拒絶した。思い込みや決めつけが激しいのは鮎美も同じなのだ。鮎美と勝男が実は合わせ鏡のような関係であることに気づいた時、6年前に放送された『凪のお暇』(2019年/TBS系)の凪 (黒木華)と慎二(高橋一生)を思い出さずにはいられなかった。

『凪のお暇』実は似た者同士だった黒木華と高橋一生 “母”の存在を前に、2人は変われるのか

「子どもって学習するよな。母親に笑ってもらうためには、何言ったらいいかって。んで、空気読んで。相手にとって都合のいい酸素になって…

 凪は鮎美とは厳密に言えば、少しタイプが異なるものの、保守的で自分がなく、ハイスペックな恋人・慎二と結婚することをゴールにして、ひたすら尽くすところがよく似ている。そんな凪は他人に合わせて無理をした結果、過呼吸で倒れてしまい、仕事と恋も全て捨てて東京郊外のボロアパートで新生活をスタートさせる。そこで自分自身を見つめ直すと同時に、変化していくのが慎二に対する見方だ。慎二のことをモラハラ気質で酷い人だと思っていた凪。だが、慎二もまた凪と同じように空気を読みすぎてしまう不器用な人で、2人は似た者同士だった。付き合っている間、凪がそれに気づかなかったのは、結局のところ、慎二のことをスペックでしか見ていなかったからだろう。自分を幸せにしてくれればそれでよくて、相手に興味を持って知ろうとはしなかった。それは鮎美も同じなのではないだろうか。鮎美が一度でも本心を打ち明けていたら、勝男は歩み寄る努力をしてくれていたような気がする。

 これまでもTBSドラマは令和のイマドキ研修医と昭和世代のベテラン医師(『まどか26歳、研修医やってます!』)、専業主婦とワーママ、仕事と家事を両立する妻と家庭を顧みない夫(『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』)など、異なる属性を安易に二項対立図式に落とし込まず、それぞれの目線に立ったフラットな描き方で視聴者に相互理解を促してきた。本作も、鮎美と勝男のどちらか一方を悪者と決めつけるような描き方はしていない。勝男と別れて、鮎美もまた自分と相手を見つめ直すことになるのだろう。「女だから」「男だから」といったバイアスから解放された先に広がる景色を、このドラマは見せてくれる。

火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

谷口菜津子による同名漫画を原作としたロマンスコメディ。「料理を作る」というきっかけを通じて、“当たり前”と思っていたものを見つめ直していく男女を描く。

■放送情報
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜22:57放送
出演:夏帆、竹内涼真、中条あやみ、青木柚、前原瑞樹、サーヤ(ラランド)、楽駆、杏花
原作:谷口菜津子『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(ぶんか社『comicタント』連載)
脚本:安藤奎
演出:伊東祥宏、福田亮介、尾本克宏
プロデューサー:杉田彩佳、丸山いづみ
編成:関川友理
音楽:金子隆博
主題歌:This is LAST「シェイプシフター」(SDR)
制作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antaga_tbs/
公式X(旧Twitter):@antaga_tbs
公式 Instagram:antaga_tbs
公式TikTok:@antaga_tbs

関連記事