圧倒的な表現力を持つ松下洸平だからこそ為せる業 『放課後カルテ』SPドラマに感じた真価
松下洸平が超偏屈な小児科医を演じる『放課後カルテ』(日本テレビ系)が、約1年ぶりにスペシャルドラマとして帰ってきた。
本作は、『BE・LOVE』(講談社)で連載されていた日生マユの同名漫画を原作とするヒューマンドラマ。学校医として小学校に赴任してきた小児科医の牧野(松下洸平)が、不器用ながらも児童一人ひとりの心身の悩みに向き合うことで成長していく姿を映し出し、お茶の間を感涙で包み込んだ。『放課後カルテ 2025秋』は2024年10月期に放送された連ドラの最終回から数カ月後が描かれる。
産休復帰した養護教諭の岩見(はいだしょうこ)に子どもたちのカルテを託し、学校医を“卒業”した牧野だが、町の健康相談会を通して東多摩第八小学校の教師たちや卒業生との交流を続けていた。
本作の一ファンとして思わず嬉しくなったのは、その“変わらなさ”だ。牧野は無口で無愛想だけど、嘘がなく、子どもを子ども扱いせずに1人の人間として扱う。だから、いつも牧野の周りには自然と子どもたちが集まってきた。中学生になった卒業生が健康相談会に押し寄せ、牧野が鬱陶しがりながらも隠しきれない喜びを滲じませる光景は微笑ましい。性格が正反対ゆえにぶつかることもあった熱血教師・篠谷(森川葵)との小競り合いも健在だ。
一方で、変わったこともある。鋭い観察眼で子どもの小さな変化も見逃さない優秀な医師だが、「病気と向き合うのは患者自身」という考えから患者の心を置き去りにしていた時期もあった牧野。だが、助けを必要としていても上手く言葉にできない、あるいは誰かに遠慮して押し黙ってしまう子どもたちとの関わりを通して、病気だけではなく心を見る大切さを教わった。
患者との向き合い方は明らかに変化し、リンパ性白血病が再々発した愛莉(松岡夏輝)が、治療に前向きになれる“何か”を探そうと病室を訪れて不審がられるほど。相変わらずぶっきらぼうではあるが、マスクから覗く眼差しだけで、牧野が愛莉の心と真剣に向き合おうとしていることが伝わってくるのは、圧倒的な表現力を持つ松下洸平だからこそ為せる業だ。
その一方で、松下は「あくまでも主役は子どもたち」であることを何度も強調しているように、主人公でありながら脇から作品を支えるポジションを担っている。それは、牧野の子どもたちとの関わり方とも重なるものだ。特にこのスペシャルドラマは、牧野が子どもたちの言葉にならないSOSと向き合うという大枠は変わらないままも、より子どもたち自身の成長にフォーカスを当てていた。