松本潤が“松本潤”を封印した凄さ 『19番目のカルテ』を傑作たらしめた新たなアプローチ
9月7日に最終回を迎えたTBS日曜劇場『19番目のカルテ』。馴染みのない人も多い総合診療科の個性と、作品全体の“優しさ”を視聴者の先入観を用いて際立たせた、珍しい作品だったと思う。
『19番目のカルテ』最終話では、沈黙する患者に何をできるかが問われた。
そして、その不思議な現象の実現に最も大きく貢献していたのが、日曜劇場に約7年ぶりに登場した松本潤だ。近年ではNHK大河ドラマ『どうする家康』や映画『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』に出演し、作中でもスター性を放つ彼の、従来とのイメージの想定から外れた役柄や、その実力で生み出すものを探ってゆく。
まず、本作で松本が総合診療医・徳重晃役として引き立たせていたのが、「外科」「放射線科」といった18の専門科に属さない「総合診療科」としての超然とした存在感だ。本作でも言われているように、総合診療科は2018年に専門医の基本領域に加わった比較的新しい診療科。世間にも広く知れ渡っているとは言いづらく、視聴者にとっても見慣れない存在を、松本は彼自身が控えめな役柄を演じることで、そのギャップから特別な言葉や振る舞いをせずとも表していた。
第1話では多くの患者について調べ、同僚の医師から「探偵かよ」「事情聴取みたい」と評されていた徳重。医師にもかかわらず探偵と評される姿、さっぱりとした性格にも見えるが、内側に患者や治療に対する熱意を抱える姿……。この差異により、患者を想う徳重の内面はより強く印象付けられる。加えてこの二面性は、これまで先陣を切って行動するような多くの花形を演じてきながら、今回はゆっくりと相手の話を聞く傾聴役に回った松本自身にも重なっているように思えた。
さらに本作は医療ドラマを、手術や複雑な人間模様といった派手なシーンを使わず魅力的に仕立て上げる。これも、私たちにある意味での違和感を抱かせる徳重によって成り立つものだろう。