『愛の、がっこう。』が物語る“愛の取り扱い”の難しさ 愛実とカヲルの最後の試練

 誠実で純粋な愛ほど、まっすぐに伝えられないものなのかもしれない。

 すれ違いの末にようやく再会した愛実(木村文乃)とカヲル(ラウール)。『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)第10話は、これまで2人を見守ってきた視聴者にとっても幸せな始まりだった。箱入り娘の愛実にカヲルがおすすめのカップ麺を紹介し、すぐにがっつこうとするカヲルに愛実が「いただきます」を促す。生きてきた環境の違いはあっても、2人なら乗り越えていける、そう感じさせるシーンだった。

 カヲルに指名客から電話がかかってきて愛実が嫉妬するのも、どこにでもいるカップルらしくて微笑ましい。ただ気になったのは、カヲルがどことなくぎこちなさそうにしていることだった。

 そのワケは、つばさ(荒井啓志)との会話の中で語られる。これまでは“ホスト”という役を演じていたカヲルは、客にいくらでも「愛してる」と言えた。だが、いざ愛実に伝えようとすると濁っている気がして言えないという。それは、つばさが言う通り、愛実を本気で愛している証拠だ。

 愛実に対して誠実であろうとするカヲルは、言葉にできない愛を行動に変える。一緒に暮らすにあたって夜の世界から足を洗い、ホスト以外の職を探し始めたカヲル。中卒で何の資格も有していない人に開かれた門戸は狭いけれど、それでも諦めずに履歴書という識字に困難を抱えるカヲルにとっては大きな壁にも向き合っていく。

 一方、愛実はカヲルとの交際について学校に理解を求める。黙っていることもできたが、カヲルに胸を張って生きてほしいと願っているからこそ、彼を愛している自分の気持ちにも一切やましさがないことを行動で示したかったのだろう。教頭の植野(今藤洋子)はその気持ちに一定の理解を示すが、念書の約束を破る以上は退職してほしいと告げる。

 夏休み明けを待たずして、学校を去ることになった愛実は誰もいない教室で教壇に立ち、生徒たちの顔を思い出す。警察沙汰を起こしたことがきっかけで出版社を辞めることになった愛実は、誠治(酒向芳)のツテで流されるまま教師になった。生徒との関係も決して良好だったわけではない。けれど、代わりに担任を受け持つことになった佐倉(味方良介)に託した生徒一人ひとりのメモには、愛実なりに教師という仕事に真剣に向き合ってきた痕跡がある。「嘘や誤魔化すなら伝えないほうがいい」と生徒たちに挨拶もせずに学校を去ったのも、愛に他ならない。

 「大事にしてても割れる時は割れるよ。ちょっとぶつけただけでもヒビが入る。落としたら粉々。かといって、大切にしまい込んでたら、曇って薄汚れちゃう」という百々子(田中みな実)の台詞は、愛の取り扱いの難しさを物語っている。カヲルはホストを辞めるために、お金を無心してくる奈央(りょう)と縁を切った。今までだって突き放すことはできたが、奈央が自分の髪を切ってくれていた頃の、確かに愛されていた記憶がそれを阻んでいたのだろう。奈央はカヲルを愛していたけれど、その取り扱い方が分からなかったのではないか。カヲルにたびたび金をもらいに行っていたのは、勇樹(あお)の父親のため。でもそれは建前で、もしかしたらそれ以外にカヲルと会う口実を見つけられなかったからかもしれない。

 愛実が子供の頃の写真に「かわいかったな」と目を細める誠治にもまた愛はある。けれど、奈央と同じで愛の取り扱い方が分からない誠治は、すべてから愛実を守ろうとして狭い箱に閉じ込め、窮屈な思いをさせてしまった。愛実が自分の手から離れ、行き場のない愛は怒りに変わり、カヲルへと向かう。

 愛実のマンションに押しかけ、カヲルを侮辱する誠治。だが、それはカヲルが自分のプライドを捨ててでも、愛実への愛を選ぶかどうかを確かめるためだった。怒りを必死に封じ込めたカヲルに誠治は「努力できるかを見せてほしい」と専門学校に入り、一生食べていける職を見つけるように命じる。川原(中島歩)がカヲルから教えてもらった愛が、巡り巡って誠治を変えた。愛がある限り、人は変われる。誠治から課された最後の試練を2人は乗り越え、愛を掴み取ることができるのだろうか。

木曜劇場『愛の、がっこう。』

井上由美子が完全オリジナルストーリーで描く、すれ違うことすらないはずの2人が出会い、惹かれ合うラブストーリー。高校教師・小川愛実が、文字の読み書きが苦手なホスト・カヲルに秘密の“個人授業”を続ける中で次第に距離を縮めていく。

■放送情報
木曜劇場『愛の、がっこう。』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:木村文乃、ラウール(Snow Man)、田中みな実、中島歩、坂口涼太郎、味方良介、野波麻帆、早坂美海、荒井啓志、別府由来、りょう、筒井真理子、酒向芳、沢村一樹
脚本:井上由美子
演出:西谷弘
プロデュース:栗原彩乃
音楽:菅野祐悟
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
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