『しあわせな結婚』が描いた“家族”とは何か “全てが壊れた”先にネルラの物語が始まる
一方で、ネルラ自身はというと、彼女もまた「既成の価値観を乗り越えた所にある」真実を頑なに信じ、守ろうとしている。それは家族の真実だ。「ハタから見れば間違ってるかもしれないけど」彼女にとっての「真実」は、考をはじめとする鈴木家の人々が頑なに貫いてきた「レオ(板垣李光人)を守り通すこと」であり、それは、幸太郎が辿りついた「真実」とぶつかり、対立する。つまり本作が描こうとする「真実」は、一般常識や既成の価値観を乗り越えることでようやく獲得できるものであるとともに、その悩ましい対立構造を示してもいる。そして、彼女と出会うことではじめて「既成の価値観を乗り越えた所」に到達する幸太郎や黒川と違い、最初から「既成の価値観を乗り越えた所」にいるネルラは、逆に身動きがとれない状態にあるとも言えるだろう。
ネルラと「家」は切り離せない。前述した、ネルラのその独特でマイペースな佇まいは、日本最大の缶詰メーカー「カンツル」の創業社長である父・寛(段田安則)を家長とした裕福な一家に生まれた生粋のお嬢様育ちゆえとも言える。つまりは、ネルラと「家」は、幸太郎の惹かれた性質ごと密接に絡み合っている。彼女にとって何より大切なのは家族である。レオの危機を前にすると、確かに愛していたはずの幸太郎が、家族を脅かす他人でしかなくなってしまうように。そしてそれは、ネルラばかりでない。
第8話でレオが、初めて食事会に来た幸太郎を見て「布施が来たときと同じようなイヤな感じがした」と言うことから、レオにとって幸太郎は、布施と同じく、大切な家族を脅かす「侵入者」でしかなかったことがわかる。ネルラと考の「レオを何が何でも守りたい」という思いは、レオを慈しむ思いだけでなく、父・寛が後継ぎにしようとしていた五守を事故で死なせてしまったことへの申し訳なさゆえでもある。つまりそこには、寛が社長の座を追われてもなお、残された一人息子は何があっても守らなければという家父長制的思考が横たわっている。奇しくも大石静脚本『光る君へ』(NHK総合)で絶対的家長である、藤原道長(柄本佑)の父・兼家を演じた段田安則が同じ役回りを担っているように。
「私たちは、出会ってはならなかったのよ」と第8話でネルラは言った。果たして本当にそうだろうか。「あなたと出会って、全てが壊れた」その先に、本当の彼女の物語は始まるのだと信じている。
大石静が脚本を手がける、夫婦の愛を問う“完全オリジナルホームドラマ”であり、令和の“マリッジ・サスペンス”。主演を務める阿部サダヲと松たか子は、10年ぶりに夫婦役を演じる。
■放送情報
木曜ドラマ『しあわせな結婚』
テレビ朝日系にて、毎週木曜21:00~21:54放送
出演:阿部サダヲ、松たか子、板垣李光人、段田安則、岡部たかし、玉置玲央、金田哲、馬場徹、辻凪子、堀内敬子、小松和重、杉野遥亮
脚本:大石静
監督:黒崎博、星野和成、楢木野礼
ゼネラルプロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)
プロデューサー:田中真由子(テレビ朝日)、山形亮介(テレビ朝日)、森田美桜(AOI Pro.)、大古場栄一(AOI Pro.)
音楽:世武裕子
主題歌:Oasis「Don’t Look Back In Anger」(Sony Music Labels Inc.)
制作協力:AOI Pro.
制作著作:テレビ朝日
©テレビ朝日
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