TVアニメ『神椿市建設中。』V.W.Pが結実した第10話 メディアミックスの真価を示す神回に

 メディアミックスによるアニメ化は、いまや珍しいことではない。既存のキャラクターやプロジェクトが「アニメ」という場を得て、新しい輝きを放つ例は数多くある。しかし多くの場合、それは原作を映像に置き換え、新しいファン層へ届ける“翻訳”としての側面が強いだろう。

 そうした中で、バーチャルアーティストに詳しくない筆者にとっても、TVアニメ『神椿市建設中。』との出会いは衝撃的だった。本作は、従来型の「映像化」にとどまらず、メディアミックスだからこそ実現できる表現に挑んでいるからだ。

 バーチャルアーティストという存在そのものをアニメに組み込み、現実とフィクションの境目をあえて揺さぶる。その試みは、これまでのアニメ化では到達できなかった、新しいエンターテインメントの形だ。

 原作をただ映像に変換するのではなく、プロジェクト全体の特性を最大限に活かす本作は、「アニメ化」の常識を覆すような新鮮さをもたらしてくれる。ここからは、とりわけアニメファンの視点から、その魅力を紹介していきたい。

歌が感情を描き切る、濃密なシーンの数々

 そもそもTVアニメ『神椿市建設中。』は、KAMITSUBAKI STUDIOが2019年から展開しているオリジナルIPプロジェクトを基盤に生まれた作品であり、近年増えているメディアミックス作品のなかでも強烈に「音楽」を前面に押し出した一本だ。バーチャルアーティストグループとして活動する、花譜・理芽・春猿火・ヰ世界情緒・幸祜からなるV.W.Pを元にしたキャラクターたちが、「神椿市」を舞台に物語を繰り広げる。

 物語の舞台は、7年前に発生した大災害「ブラックアウト」で文明が崩壊した世界。奇跡的に復興を遂げた神椿市では、人の悪意から生まれる怪物「テセラクター」が暗躍している。唯一対抗できるのは「魔女の娘」と呼ばれる5人の少女たちの歌声だ。彼女たちは街を守るべく、魔法の歌声を武器にテセラクターと戦う運命を背負うことになる。

 ダークな世界観に、異形の怪物と魔女の対立構造……といえば、『魔法少女まどか☆マギカ』を想起する視聴者も多いかもしれないが、作中で真に際立つのは楽曲と映像が交錯する歌唱パートの迫力だ。その凄さといえば、各話ごとに異なるエンディングテーマが用意され、さらに毎話劇中歌まであるという徹底ぶり。

 こうした“歌もの”アニメの人気作は数多く存在するが、TVアニメ『神椿市建設中。』の歌唱シーンのクオリティは群を抜いている。キャラクターの感情や物語の転機を歌そのもので描き切っており、楽曲がシナリオと同じ比重で存在感を放っているからだ。専門用語や難解な設定にたじろぐことはあっても、音楽パートが一気にそのハードルを飛び越えさせてくれる点はこの作品の大きな強みだろう。

ライブ級の熱量と精緻な演出

 監督・シリーズ構成・音響監督を務めるのは『BanG Dream! Ave Mujica』の柿本広大。5人の魔女はそれぞれ葛藤を抱えつつも、どん底から光を模索する。その姿は時にあまりにも容赦なく描かれ、観る者の胸をえぐる。プロジェクトの成り立ちを見ても、「Ave Mujica」がメンバー本人をキャストに迎えているように、TVアニメ『神椿市建設中。』もKAMITSUBAKI STUDIOのバーチャルアーティストグループ「V.W.P」が主要キャストを務めている。歌と芝居が完全に地続きとなり、ライブの熱量をそのまま物語に落とし込んだような臨場感があるのも納得だ。

 時に、シンガーが声優としてキャラクターを演じることについては、さまざまな見方がされることもあるだろう。だが本作では、そうした先入観を忘れさせるほどキャスト陣の芝居がしっかりしており、シンプルに上手だと感じられた。

 森先化歩役の花譜、谷置狸眼役の理芽、朝主派流役の春猿火、夜河世界役のヰ世界情緒、輪廻此処役の幸祜。「V.W.P」メンバーによる声は日常パートでもキャラクターと強く結びつき、説得力を伴って響く。さらに『魔女の娘』たちを支えるパートナーの「ファミリア」たちを演じる佐倉綾音、富田美憂、阿座上洋平、梅田修一朗、藤堂真衣や「復興課長」役の伊藤静といった豪華声優陣が加わり、作品の厚みを一層引き上げている点も注目したい。

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