今田美桜&北村匠海、二宮和也&松嶋菜々子 『あんぱん』が描く多様な“愛のかたち”

 やなせたかしと妻・小松暢の人生をモデルにしたNHK連続テレビ小説『あんぱん』は、単なる偉人伝を超えて、人々の生き方や愛の形をも鮮やかに描き出している。

 その中でも特に目を引くのが、登場人物たちが築く“夫婦”の姿だ。のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)を中心に、すでに失われた愛、これから芽生えようとする愛、そして初恋の予感まで。4組それぞれが全く異なる愛の形を体現し、ドラマ全体に厚みを与えている。ここでは、それぞれの関係性の特徴と魅力を整理しながら、『あんぱん』が描く夫婦の姿を紹介したい。

のぶ(今田美桜)&嵩(北村匠海)

 本来の史実では戦後に出会った2人を、ドラマでは小学生時代からの“幼なじみ”として描き直した。この脚色によって、2人の関係は偶然ではなく運命の出会いとして強く結びついている。いじめられる嵩を守ろうと「嵩はうちが守っちゃる!」と叫ぶ幼いのぶの姿は、その後の2人の関係性を象徴する名場面。成長したのぶは明るく行動的で、飾らない強さを持つ。一方、嵩は繊細で感受性豊かだが、その弱さゆえに悩みやすい。だからこそ2人は、互いの足りない部分を補い合うパートナーとして描かれていた。

 それは大人になっても変わらない。長期の朝ドラらしく、2人の愛は小さな日常の積み重ねを丁寧に描き出し、やがて「アンパンマン」の正義へとつながっていく。王道の夫婦像でありながら、その姿を見ていると“正義とは愛の延長線にあるものだ”と自然に感じさせてくれる。

メイコ(原菜乃華)&健太郎(高橋文哉)

 そして物語に新しい風を吹き込むのが、三女のメイコと健太郎の2人。歌が大好きで天真爛漫なメイコは、家族を明るく照らす存在だ。そんな彼女が初めて“胸のドキドキ”を感じるのが、嵩の友人・健太郎との出会いである。

 これまで恋に縁のなかった少女が、戸惑いながらも心をときめかせていく。その姿は、戦争の影に覆われた時代背景と鮮やかなコントラストを成している。観る者にとっても、2人の関係は若者たちが未来に踏み出していくことの尊さをストレートに伝えてくれる“希望の象徴”だった。メイコの思いが健太郎に伝わったときには、自然と笑みがこぼれ、いつの間にか彼らの未来を応援したくなった。

 原菜乃華の自然体な表情と、高橋文哉の柔らかな存在感が重なり、フレッシュな初恋の物語を生み出していた点も魅力だ。お互いに惹かれ合う心を少しずつ確かめながら歩み出す姿は、“夫婦の原点”を映し出すかのようだ。大人の成熟した愛とも、悲劇を背負った愛とも違う、まっさらな関係性が描かれることで、作品全体に未来への希望と温かな余白をもたらしている。

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