『ジュラシック・ワールド』シリーズへの期待と課題 監督による“死”の描き方の違いを考察

 『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は、『ジュラシック・パーク』『ジュラシック・ワールド』シリーズの7作目。新たにギャレス・エドワーズを監督に迎え、新たな一章としての本作は国内外で賛否を巻き起こしている。この議論に対して、 私なりに「映像としてどのような演出がなされているか」という点を中心に分析し、次作に向けて考察する。

 なぜ賛否が巻き起こっているかといえば、 ストーリーのテンポの遅さが気になる観客が多いようだ。確かに過去作に比べて恐竜が出てくるまでの時間は長く、加えて恐竜のDNAを採取するクルーたちの物語は紹介だけされるも深掘りはされない。これについては私も、次作では個々人の話をもう少し掘ってみるとさらに面白くなるのではないかと考えている。実際にエドワーズ監督が担当しているハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』は、個人の話にスポットライトが当たっている部分も多い。本作はかなり時間がタイトな製作進行だったようなので(パンフレットに製作時期の記載がある)、時間に余裕が出来る可能性が高い次作に期待だ。

 もちろん同シリーズにおいてストーリーと同じくらいのウェイトを占める要素は「恐竜」の描写だが、これについても賛否があるようだ。

 賛否が分かれるの理由は3つあるだろう。1つ目に、恐竜の登場時間が少ないこと。2つ目に“陸/海/空”における恐竜のDNA採取という展開上、出てくる恐竜の種類が少ないこと。3つ目に、恐竜同士の闘いがないことがあげられる。

 この批判はもっともであると私も考える。だが、逆に登場時間を絞っているからこその工夫や次作への期待に繋がる要素があるはずだ。

 エドワーズ監督は時間を絞っている分、過去作のオマージュを入れつつも、近年の古生物学研究を反映した恐竜たちの生態を意識したようだ。例えば海の恐竜、モササウルスは近年の研究を反映してフォルムがクジラのように太めになっている。また、群れで狩りをする恐竜たちの様子も描かれており、生態系を考えた映像としてのこだわりが見受けられる。さらに原作にも登場したティラノサウルスが泳ぐシーンは臨場感がある水際の撮り方だった。

 ここに次作への期待を述べるのであれば、「ヴィジュアルに付随する危険」が欲しいということだ。

 たとえば、ティラノサウルスが泳ぐ。ここまでは素晴らしい。迫りくるティラノと人間たちとの対比はスリリングな面白い場面だ。しかし、誰も食べられない。目と鼻の先に泳いでいるにもかかわらず、だ。これはあまりに現実感に欠ける。

 この危険性のなさは作中全体に漂っており、お菓子の袋から物語がはじまる時点でシリアスにはできなかったのかもしれないが、それを抜きにしても本作で恐竜によって死ぬ人間は過去作に比べるととても少ない。また恐竜同士の争いもないため、恐竜の圧倒的恐怖感がない。

 強いて言えば、D-REXだけは作中において恐怖の象徴として描かれていると言えるだろう。だが、この恐竜は改造恐竜で、エドワーズ監督の過去作『GODZILLA ゴジラ』に出てくるムートーと酷似した、どちらかといえば異形の怪物。恐竜映画である必要性が削られてしまっているのだ。

 せっかく新たな事実を反映した恐竜たちの姿を描いているのに威厳がない。これは大変惜しいことだ。次作では改造恐竜ではなく実際の恐竜たちの、危険を伴った偉大な姿に期待したい。

 ただ、死の描写が少ないこともまたエドワーズ監督の特徴ともいえる。同じ『ゴジラ』シリーズの中でも近年に作成された邦画の『ゴジラ-1.0』では、街や島に現れたゴジラは容赦なく破壊と殺戮をつくす。そして実際に死にゆく人も描かれる。だが、エドワーズ監督の『GODZILLA ゴジラ』には原子力の熱線を放つゴジラによって被爆する人間は出てこないし、怪物たちが戦う街中で潰された人間は出てこない。考えてみたら実際にはそういう被害は出るはずなのだ。

 これはどちらかに良し悪しがあるのではなく、監督の個性の1つであるのだとは思う。エドワーズ監督は力に対しての直接的な死の描写を避けている。ただ『ジュラシック』シリーズをはじめたスティーヴン・スピルバーグ監督は『ジュラシック・パーク』をはじめ『プライベート・ライアン』や『シンドラーのリスト』でしっかりと「危険」としての死体を提示してきた。オマージュとしての場面を多数いれるのであれば、このあたりの危険性の表現としての死も次作では観たい。

 ハリウッドにおいて恐竜映画はとにかく少ない。いや、むしろこのシリーズだけともいえる。だが、万国共通で恐竜に憧れてきた子供たちは多い。その無邪気な憧れと童心のためにもこれからの『ジュラシック』シリーズに期待をせずにはいられない。

■公開情報
『ジュラシック・ワールド/復活の大地』
全国公開中
出演:スカーレット・ヨハンソン、マハーシャラ・アリ、ジョナサン・ベイリー、ルパート・フレンド、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、ルナ・ブレイズ、デヴィッド・ヤーコノ、オードリナ・ミランダ、フィリッピーヌ・ヴェルジュ、ベシル・シルヴァン、エド・スクライン
監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:デヴィッド・コープ、マイケル・クライトン
キャラクター原案:マイケル・クライトン
製作:フランク・マーシャル、パトリック・クローリー
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、デニス・L・スチュワート、ジム・スペンサー 配給:東宝東和
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公式サイト:https://www.jurassicworld.jp/
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