『あんぱん』“草吉”阿部サダヲを苛む戦争の傷跡 嵩が見つけた“逆転しない正義”の答え

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』も残り3週。第24週「あんぱんまん誕生」では、そのタイトルが示すように、嵩(北村匠海)にとっての代表作であり、後に国民的アニメとして知れ渡ることとなる『アンパンマン』がようやく日の目を見ることとなる。のぶ(今田美桜)の茶道の弟子・中尾星子(古川琴音)を新たに迎えながら、予告には東海林(津田健次郎)の姿もあり、懐かしい人々がもう一度登場する朝ドラの最終盤に突入していることを実感させられる。

 その懐かしい面々の一人として、第115話に登場するのが“ヤムおんちゃん”こと草吉(阿部サダヲ)だ。蘭子(河合優実)と偶然再会し、柳井家に連れてこられた草吉は、のぶと嵩が結婚したことを知り驚愕し、やがて安堵する。草吉は愛国の鑑だったのぶが、戦後に世の中の価値観が逆転し、どうやって生きていくのかが心配だった。けれど、のぶのそばにはいつも嵩がいた。そのことを聞いて、草吉は「絶望の隣はまんざら捨てたもんじゃなかったってことか」とつぶやく。

 これは第43話のアンサーだ。のぶの次郎(中島歩)との婚約を知り落ち込む嵩は「絶望の隣は、希望ですから」と寛(竹野内豊)の言葉によって自身を鼓舞するが、草吉は「本当の絶望はこんなもんじゃないよ」「絶望の隣は、絶望の二丁目かもな!」と冗談混じりに話していたが、結果的に絶望の隣にはのぶという希望があったということになる。

 嵩にとって、草吉はアイデアの源泉にある存在だ。嵩はすれ違いから草吉と再会することは叶わなかったが、手嶌(眞栄田郷敦)の仕事場を訪れていた嵩(北村匠海)は、アニメ映画『千夜一夜物語』の主人公について考えながら風来坊の草吉を思っていた。アンパンマンの前身にあたる、あんぱんを配るおじさんも、幼い頃に草吉からあんぱんをもらった第1週での体験が原点にある。

 そんな嵩にとっての大切な恩人である草吉は、今も戦争で負った心の傷を抱えたまま、“根なし草”として、全国を転々としていた。心にトゲが刺さったままなのは、草吉だけではない。千尋(中沢元紀)を失った登美子(松嶋菜々子)、豪(細田佳央太)を失った蘭子、家族を失った八木(妻夫木聡)。8月15日、終戦記念日。戦没者に黙祷を捧げ、嵩は「ヤムさんや、みんなの心のトゲを僕は抜いてあげたいんだ。そのために、僕らに何ができるんだろう」と自問自答する。どこの国の人でも、どんなことが起きても、ひっくり返らない、みんなが喜ぶこと――。死の淵で再会した父・清(二宮和也)の言葉を胸に、嵩はもう一度あんぱんを配るおじさんの絵と向き合い始めた。

 嵩とのぶが答えを探す、逆転しない正義とは、飢えている人がいればひと切れのパンを分け与えること。嵩の戦争体験をはじめ、全てが今に、『アンパンマン』へと集約していく。注目したいのは予告で一瞬インサートされる嵩がかけているオレンジのメガネ。これはやなせたかしのトレードマークの一つであり、ようやく初回の冒頭で描かれた嵩へと限りなく近づいてきている。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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