石橋静河、事務所移籍で迎えるキャリアの節目 朝ドラ『ブラッサム』ヒロインへと至る歩み
2010年代後半に映画シーンに登場し、俳優として、その存在感の厚みを示し続けてきた石橋静河。映画のみならず、舞台、テレビドラマでもバランスよく活動を展開し、いまでは日本のエンターテインメントシーンにおいて欠かせぬ演技者のひとりだといえるだろう。2026年の秋には主演を務める朝ドラ『ブラッサム』(2026年度後期/NHK総合)が放送予定で、お茶の間でお馴染みの存在にもなるはず。そんな彼女が所属事務所を移籍したのだという。これは何か大きな変化につながるのだろうか。
石橋静河は従来のヒロイン像を塗り替える? 『ブラッサム』は革新的な朝ドラになる予感
2026年度後期NHK連続テレビ小説『ブラッサム』は、実在の作家・宇野千代をモデルとした葉野珠が主人公の物語。宇野は明治に生まれ…俳優・石橋静河が映画の世界で発見されたのは、池松壮亮とダブル主演を務めた『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)だろう。東京を舞台にままならない日常の中でもがく劇中の人々の姿は、非常に大きな反響を呼んだ。初主演にして妙演を刻んだ石橋の演技も高く評価されたものである。率直にいって素晴らしかった。
いや、映画の世界で石橋を発見した作品としては、同作よりも少しだけ早く『PARKS パークス』(2017年)が公開されている。こちらでの出番はごくかぎられたものだったが、それでも劇中の彼女の姿は鮮明に覚えている。どちらも公開は2017年で、石橋が俳優活動をスタートしてからほんの数年後のこと。前者は石井裕也監督作であり、後者は瀬田なつき監督作だ。商業性よりも作家性の高い映画とともに、俳優・石橋静河の存在を私たちは認識することになった。
そしてその流れは今日に至るまで、ずっと続いている。三宅唱監督の『きみの鳥はうたえる』(2018年)、関根光才監督による初の長編劇映画『生きてるだけで、愛。』(2018年)、荒木伸二監督の長編デビュー作『人数の町』(2020年)、岨手由貴子監督の『あのこは貴族』(2021年)、そして、富名哲也監督の『わたくしどもは。』(2024年)などである。いずれも“作家の映画”であり、ミニシアターでの上映を中心に、映画ファンに愛される作品たち。日本の映画文化の発展に影響を与える存在たちとの関係の中で、現在の俳優・石橋静河という存在は築き上げられてきたのだろう。
しかし冒頭に記しているように、石橋の活動領域は映画だけではない。その名が広く知られるようになる前の2016年には、NODA・MAPの『逆鱗』に出演。演じた役どころは特定のキャラクターではなく、舞台上においてさまざまな状況や環境、あるいは何かしらの感情を声と身体とで表現するアンサンブルキャストのひとりだ。石橋は俳優活動をはじめる前、コンテンポラリーダンサーとして活動していた。その頃に培った経験が舞台上では活きるのだろう。
いや、“活動していた”と“過去形”で記すのは誤りか。ベッド&メイキングスの『こそぎ落としの明け暮れ』(2019年)にも、赤堀雅秋の作・演出による『神の子』にも、何気ない瞬間に彼女の優れた身体性が表れていた。長塚圭史の演出による『近松心中物語』(2021年)や岡田利規が演出を務めた木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』(2023年)などももちろんそうである。個々の作品がどういったものなのかまで言及しはじめると、とても紙幅が足りない。気になった方はぜひ調べてみてほしい。俳優・石橋静河は演劇シーンでも最前線に立ち続けている。
稲垣吾郎、内田有紀からの「稲垣くん」呼びに喜び 石橋静河は2人を見て「ほっこり」
ドラマ 10『燕は戻ってこない』の出演者会見が4月12日にNHK放送センターにて開かれ、主演を務める石橋静河をはじめ、稲垣吾郎、…さて、2026年秋放送の『ブラッサム』で主演を果たすと記したが、石橋が「朝ドラ」に登場するのはこれが2度目だ。2018年放送の『半分、青い。』(NHK総合)に彼女は出演している。けれども同作では役どころこそ重要だったものの、肝心の出番はとてもかぎられていたと記憶している。あれから8年――『燕は戻ってこない』(2024年/NHK総合)や『ブラック・ジャック』(2024年/テレビ朝日系)といったテレビドラマでも彼女は大役を担うようになった。映画、舞台、ドラマと、軽やかにフィールドを横断する演技者、それがいまの石橋静河である。「朝ドラ」での主演とあって来年の活躍は内定しているも同然だが、所属事務所を移籍すると当然ながら環境が変わる。その中でどのようなパフォーマンスを展開していくのか。2025年はまだ夏だというのに、早くも2026年の秋が待ち遠しい。
■放送情報
2026年度後期 NHK連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、2026年秋~放送
出演:石橋静河
作:櫻井剛
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
演出:盆子原誠
写真提供=NHK