脚本家・岡田惠和の“容赦のなさ”が詰まった『イグアナの娘』 母と娘の物語は今も必見

 この母の秘密が明るみになっていくあたりから、ドラマはグッと盛り上がり、有終の美を飾ることになる(視聴率が後半バク上がりした)。序盤は主人公がイグアナで……というファンタジー設定が受け入れられない視聴者もいたのかもしれない。それが、次第に視聴率をを上げていったのは、原作では削ぎ落とされた部分――ゆりこの背景が丁寧に描かれて、誰もがわかりやすいものに仕上げたことが成功の要因であろうか。父親役の草刈正雄がやたらと二枚目なことにも後半、説得力を感じさせることになる。デビュー6年目の岡田惠和の手際の良さ。その翌年1997年に大ヒットオリジナル連ドラ『ビーチボーイズ』(フジテレビ系)を書くことになる彼がアクセルをぐっと踏み出した頃である。

 もちろん、菅野美穂のナイーブな演技にもリアリティがあり、変わりたいと思うようになる健気さは瞬きもせず見守りたくなる。

 菅野は1993年に俳優デビューしている。岡田と菅野美穂はほぼ同時代にデビューした者同士であり、フレッシュな組み合わせによるドラマなのである。気鋭の脚本と主演で月曜20時に若者向けファンタジードラマを放送していたということに、テレビドラマに勢いがあった時代を感じる。

 勢いといえば、第8話。衝撃的な展開が待っている。リカの親友・伸子の身に降りかかる運命のいたずら。さらに最終回、母親が……。原作原理主義者的にはこの展開にやや抵抗も感じなくはない(結果は同じなのだが、なにか違うのだ)。

 近年――とりわけ朝ドラ『ひよっこ』(2017年度前期)以降、ほっこりやさしい世界の作家とされている岡田惠和だが、この頃は容赦がなかった。『日曜の夜ぐらいは…』(2023年/ABCテレビ・テレビ朝日系)の最終回で清野菜名が自転車を全速力で漕ぎだしたとき、こわいことが起こるんじゃないかと筆者がひやひやした理由は、この時代の岡田作品のトラウマに違いない。この時代のドラマは荒ぶっている。それは毒親よりもイグアナよりもこわい。

 ただ、最後はしっかりあたたかくまとまっているので安心してご覧ください。

■配信情報
『イグアナの娘』
TVerにて期間限定配信中
出演:菅野美穂、岡田義徳、小嶺麗奈、佐藤仁美、山口耕史、小松みゆき、井澤健、榎本加奈子、川島なお美、草刈正雄
原作:萩尾望都「イグアナの娘」(小学館刊)
脚本:岡田惠和
音楽:寺嶋民哉
演出:今井和久、新城毅彦
企画&プロデュース:高橋浩太郎(テレビ朝日)
プロデュース:東城祐司(MMJ)、塚本連平(MMJ)
制作:テレビ朝日、MMJ
©萩尾望都/テレビ朝日・MMJ

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