映画を観る喜びがここに 誰もが“自分の話”になる『リンダ リンダ リンダ』はやっぱり最高

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。今週は、関根史織さんにガチ恋していた石井が、映画『リンダ リンダ リンダ 4K』をプッシュします。

『リンダ リンダ リンダ 4K』

 映画に携わる仕事をしていると、なんとも言えない距離感の友達や知り合いとの会話の中で必ずとも言っていいぐらい出てくる質問があります。

「今までで一番良かった映画はなんですか?」
「観たほうがいい映画はなんですか?」

 「一番って急に言われてもさァッ!」「あなたが普段どれぐらい映画観ているか分からないとさァッ!」と心の中で毒を放ちつつ、誰にでも嘘偽りなくススメられる作品、それが自分にとっては『リンダ リンダ リンダ』でした。

 なぜためらいなく、誰にでもススメられると言えるのか。それは『リンダ リンダ リンダ』には、誰もがこれは「私の、俺の、僕の話だ!」と思える要素が詰まっているからです。

 韓国からの留学生を加えた女子高校生バンドが、ブルーハーツをカバーして、文化祭で披露する……あらすじを書くとこれだけ。「自分はバンドやっていなかったし」「ブルーハーツ興味ないし」「男だし」「高校にいい思い出がないし」などなど、自分とは関係ないと思う方もいるかもしれません。

 確かに、バンドをやっていた人のほうが共感度は高いだろうし、高校生のときにザ・青春を過ごした人のほうがよりのめり込みやすいという部分はあると思います。ただ、それを差し引いたとしても、これは“自分の物語”と感じてしまう要素、瞬間が本作にはあるんです。それは、本作の主人公が、ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織の4人でもあり、ブルーハーツの楽曲でもあり、学校でもあり、“時間”でもあるからです。

 誰にとっても平等な時間。楽しい時間も悲しい時間も、誰もがいろんな経験をして毎日を過ごしていると思います。『リンダ リンダ リンダ』には、何気ない毎日の愛おしい時間もつまらない時間も、その一瞬一瞬が、4人のバンドメンバーを通して刻み込まれています。SNSもスマホもない時代、家に電話するときのドキドキ、夜の学校に忍び込むスリル、友達と一緒にご飯を食べる時間、1人で悶々とする時間、楽しい夢を見る時間と、そのどれもが何よりもやさしくあたたかいです。本作を観ている間は、過ごしてもいないはずの地方の学校での軽音楽部での記憶がなぜか自分に埋め込まれていきます。

 劇中に出てくるカセットテープ、MDにガラケーはもちろん、もしかしたらCDで音楽を聴いているシーンでさえ、いまの10代にとっては、「レトロ!」的な感覚かもしれません。でも、「古臭い」ではなく、「なんだ一緒じゃん」と思える瞬間がたくさんあると思います。

 映画のクライマックスは、言わずもがな「リンダリンダ」と「終わらない歌」を歌うライブシーン。演奏もペ・ドゥナの歌も、上手いとか下手とかを超えた、神々しい何かが宿っています。「終わらない歌」のタイトルそのままに、“終わらない”まま映画は終わります。この終わり方は、映画で味わった時間をそのまま私たち自身の人生にもつなげてくれているようでもありました。

 今やすっかり名監督・名脚本家となっている山下敦弘監督と向井康介の黄金コンビ作であることだったり、ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織の4人の輝きに、若すぎる!松山ケンイチに、いつの時代も作品を支えてくれる三浦誠巳に甲本雅裕と、スタッフ・キャストにも言及しだしだらキリがないほど、2005年のこのときにしか作ることができなった奇跡がこの作品には詰まっています。

 最後のライブシーンを味わうためだけでも、スマホでも、家のテレビでもなく、映画館で観ることをオススメします!

■公開情報
『リンダ リンダ リンダ 4K』
新宿ピカデリー、渋谷シネクイントほか全国公開中
出演:ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織(Base Ball Bear)、三村恭代、湯川潮音、山崎優子(meism)、甲本雅裕、松山ケンイチ、小林且弥、小出恵介、三浦誠巳、りりィ、藤井かほり、近藤公園、ピエール瀧、山本浩司、山本剛史
監督:山下敦弘
主題歌:「終わらない歌」(ザ・ブルーハーツ)
脚本:向井康介、宮下和雅子、山下敦弘
音楽:James Iha
製作:「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
配給:ビターズ・エンド
2005/日本/114分/カラー
©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
公式サイト:www.bitters.co.jp/linda4k
公式X(旧Twitter):@linda_4k
公式Instagram:@lindalindalinda4k

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