村川絵梨×岸本鮎佳が生み出す極上の舞台 怖さと面白さを知った2人に演劇の“強さ”を聞く

 10年来の飲み友達だった村川絵梨と岸本鮎佳が、再び二人芝居に挑む。2024年に上演された『それでは登場して頂きましょう』の再演『またしても登場して頂きましょう』は、偶然の再会からワイン片手の勢いで決まったという。演劇の敷居を下げ、観客にとっての“入口”を作ることを目指す本企画。再演とはいえ、台本は1ページごとにブラッシュアップされ、ただの焼き直しではない。「見えてる景色がある」と語る村川と、「怖さも面白さも知っている」と笑う岸本。二人が互いへの信頼とノリで作り上げる、唯一無二の舞台の裏側を聞いた。

演劇をより身近なものとして楽しんでもらうために

――まずは、おふたりの関係性から聞かせてください。

村川絵梨(以下、村川):10年くらい前に、共通の知人がやっているバーで出会いました。2人で飲み始めたのは7年前くらいですかね。これまで仕事でご一緒する機会がなかなかなくて、本当にいい飲み友達でした。

岸本鮎佳(以下、岸本):最初に会ったときに、なんとなくノリが一緒だな、と感じたんです。初対面でも3分くらい喋ると、「あ、この人苦手だな」って一発でわかるじゃないですか。それが全然なくて、また一緒に飲めるねって。

村川:鮎佳ちゃんは今よりも髪が長くて、もっと“お姉さん”っぽかったんですよね。なので、私のほうから「かわいい~、きれい~」と酔っ払って絡んでいたと思います(笑)。そこからどんどん距離が近づいて、いつの間にか友達になった、という感覚です。

(左から)村川絵梨、岸本鮎佳

――この企画は、村川さんからお声がけして実現したそうですね。

村川:ずっとご一緒したかったんですが、鮎佳ちゃんとも「いいタイミングでしたいよね」と話していて。でも、「いいタイミングっていつだろうな」と考えたときに、これは「一緒にやりましょう」と言っちゃったほうが早いなと。それで一昨年の年末に、ご飯を食べながら「二人芝居とかどうですか?」とお誘いしました。

岸本:今までの経験上、飲んでいるときに誘われるパターンって、ほぼ実現したことがなかったんですよね。なので、「私もそのつもりで動くから、やるなら絶対にやってね」と言いました。そうしたら村川さんは、何もわからないながらに劇場探しから稽古場のことまで一生懸命やってくれて。それがあったから実現した企画だと思います。

村川:どう動いていいのかまったくわからなかったので、本当に事務所の皆さんに助けてもらいました。私は甘え下手なんですけど、「こういうときに今までの人脈を使わないと!」と思って。

岸本:でも、さすがは大手芸能事務所・アミューズの力ですよね。普通は区民集会所とかで稽古をやるところを、スタジオまで貸していただけて。

村川:この企画で、「稽古場を押さえるのに一番お金がかかる」ということも初めて知りました。そんなことすらも知らずに舞台に立たせてもらっていたので、「ああ、作るって大変だな」と思うのと同時に、「本当にアミューズにいてよかったな」と(笑)。

岸本:あははは。でも、本当に大手の保証は大事だから。今回も、辞めないでいてくれてよかったですよ(笑)。

(左から)村川絵梨、岸本鮎佳

――(笑)。企画には「舞台の敷居を下げたい」といったコンセプトもあるそうですね。

岸本:今、演劇のチケット代がめちゃくちゃ上がっているので、このままだと本当に限られた人のカルチャーになってしまう。でも、ディズニーランドに1万円払えるように、人は「面白い」とわかっているものにはお金を出せるんですよね。だから、そのきっかけになれるようにチケット代を安く設定しています。それが面白ければ、「また違う団体にも行ってみよう」と思ってもらえるかもしれない。そうやって演劇への間口を広げることが、私にできる唯一のことだなと思っています。

村川:岸本さんは演劇をより身近なものにするために、美容院やレストランでお芝居されることもあるんです。『私もそういうことがしたい』とずっと話していたので、その流れを取り入れられることがうれしかったですね。私自身、演劇が好きでよく舞台に立っていますけど、やっぱり1万4000円くらいすると「来てください」とは言いづらくて、もどかしさもあったんです。でも今回は、大きな声で「来てほしい」と言える。そんな作品を一緒に作らせてもらっていて、すごく楽しいし、やりがいも感じています。

村川絵梨

――実際、前作で二人芝居をされてみていかがでしたか?

岸本:艶∞ポリスを立ち上げる前にも二人芝居をしたことがあって、そのときに初めて舞台上でセリフが飛んだんです。二人芝居だと、助けられるのは1人だけ。それが本当に怖くて、ずっとトラウマでした。前回の『それでは登場して頂きましょう』でも、実は同じことがあったんですよ。でもそのときは、「ヤバい」と思いながらも「村川さんならなんとかしてくれる」という安心感があって、結局なんとかなりました。とはいえ、ちゃんと怖かったし、ちゃんと新たなトラウマにもなったので(笑)、今回の再演は私にとって本当に想定外でしたね。

村川:2人の会話劇で、テンポが速くて、お客さんとの距離も近くて。私はコメディにもあまりトライしたことがなかったので、余裕はなかったです。でも、舞台に立ったときにドカンドカンと笑いが来て、「これは何なんだろう」という初日の高揚感が忘れられなかったんですよね。客席の反応がダイレクトに伝わって、不安がスーッと抜けた感覚をすごく覚えています。もちろん大変なこともあったけど、その高揚感がずっと続いていたので、終わった後には「寂しいなぁ」という気持ちでした。でも、気力も体力もいるのでしばらくは……と思っていたんですが、なぜかやることになりましたね(笑)。

村川絵梨は意外にも“ロックスター”?

――再演に関しても、また村川さん発信で?

村川:いや、今回は2人で決めました。今年の4月頃に、たまたま近くにいたので久しぶりに会うことになったんです。目黒のカフェみたいなところで、すごく天気が良くて、「ワインでも飲んじゃおうか」とか言ってね。

岸本:昼から外で飲み始めちゃってね。

村川:そうしたら、もう盛り上がっちゃって。「今年、艶∞ポリスの公演やらないんだよね」と言うので、「2人で再演だったらできるかもしれないね……え? やっちゃう?」みたいな。それですぐにマネージャーに連絡して、前回の小屋(会場)が空いているかを確認して、そこからはスタッフさんも全員揃ってポンポンポンと。

岸本:恋愛とかもそうだけど、うまくいくときにはポンポンポンッと進むものなんですよね。ノリって意外と大事なので、その流れに乗った方がいいなと。しかも、そういうときのほうが結果も良かったりするんですよ。

村川:あれは本当に勢いだったね。

岸本:村川さんは、意外とロックスターみたいなところがあるんです。「やっちゃう?」って。きっと、そこのノリが合うんですよね。

村川:でも、しばらくやりたくないと言っていたから、まさか「やる」って言うとは思わなくて、「本当にやる?」と聞きました(笑)。

岸本:私はもう、本当にやりたくなかったのよ(笑)。でも怖いもので、半年くらい経つと記憶ってだんだん薄れて、いい思い出にすり替わってくるんですよね。しかも周りが「面白かったよ」とか言ってくれるから、だんだん調子に乗ってきちゃって。「よく考えたら、楽しかったよな」とか思っちゃって、やることになりました(笑)。

岸本鮎佳

――前回2人でお芝居してみて新たに見えたこと、意外だったことはありましたか?

岸本:私、村川さんはもうちょっと頑固かも、と思っていたんです。自分もそうですけど、16歳からお芝居をやっていると、だいたいクセがついているじゃないですか。自分のリズムが確立されちゃって、曲げられない部分があるんです。でも、絵梨は私が言ったことをちゃんとやろうとしてくれる。それがすごく意外でした。もっとケンカのようになるかなと思っていたので。

村川:いやいや、全然。むしろチャンスだと思っているので、岸本さんが言ってくれること、やっているお芝居を見て、いかに吸収できるか。私はいつもそういう気持ちでいたので、そう思われていたことが意外でした。

岸本:観終わった方は、みんな村川さんのことを「綺麗」って言うんですよね。そりゃあ綺麗ですよ、綺麗なんですけど、「一番に出てくる感想がそこなんだ」とは思いました。「じゃあ私は何なの?」っていう(笑)。

村川:どういう気持ちで言ってくれてるんだろうね(笑)。

岸本:姿勢も含めて、村川さんは“女優感”がすごくあるんですよ。飲食店でも、背筋をピンと伸ばして食べてるから。

村川:姿勢がいいんだよね(笑)。

岸本:トイレから帰って来ると、すごく姿勢よく待ってるから逆に怖い、みたいな(笑)。私はお芝居をするとき、あえて猫背気味にするので「その対比がそう見せたのかな」とは思いましたけどね。

村川:私は「観たことがない私をいっぱい観られた、輝いてたね」とすごく言われました。「絵梨の良さが出てた」と家族しかり、友達しかり、みんなが言ってくれて、そんな演劇なかなかないなと思いましたね。岸本さんがすべて当て書きしてキャラクターを作ってくれたので、もう本当に感謝しかないです。

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