『あんぱん』『てるてる家族』『ひよっこ』、「見上げてごらん夜の星を」と朝ドラの深い縁
この歌は朝ドラでおなじみだ。印象的なのは『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)第107話。朝ドラ好きの雪衣(多岐川裕美)が亡くなったのが、『てるてる家族』で「見上げてごらん夜の星を」が流れた回の放送日であったという趣向。それは『てるてる家族』の2003年12月15日放送の第67話ということになる。昭和39年、ヒロイン冬子(石原さとみ)の姉・夏子(上原多香子)が東京の芸能事務所と契約する(モデルはいしだあゆみ)。その回で夏子がひとり空を見上げて歌う。その傍らには家族で撮った写真がある。ミュージカル仕立ての異色のドラマで、上原多香子が一番まるまる歌った。
ほかには『ひよっこ』(2017年度前期)。ヒロインみね子(有村架純)が働く工場の乙女寮のコーラス部で歌われた。印象的なのは第52話、「見上げてごらん夜の星を」の練習中、指揮を担当している雄大(井之脇海)が幸子(小島藤子)にプロポーズ。「ふたりなら苦しくなんかないと思うんだ」という歌詞を引用する。この週のサブタイトルは『小さな星の、小さな光』だった。
『あんぱん』では大森元貴が歌った。『見上げてごらん夜の星を』で描かれる定時制で働きながら勉強している若者たちは苦労している。勉強したいのにお金がなくて辞めなくてはならない。この話と『あんぱん』第100話を接続するのは蘭子(河合優実)だ。彼女は10代のとき、進学しないで郵便局で働き、家計を助けていた。自分が選んだ道だったが、いまになって学歴のなさがいろいろ響く。学校にいっていなくても教養はあって、映画評論の原稿が評判になったり、八木が引用した言葉「逆境が人に及ぼすものほど輝かしい」の出典がシェイクスピア(『お気に召すまま』)だとすぐ気づいたりする。
蘭子を励ました八木は、戦災孤児に食べ物だけでなく学びの機会を与えようとしていた。子どもたちには教養も大事な栄養なのだ。『あんぱん』は子どもたちが学ぶことの大切さを決して声高ではないけれど、こっそりと物語に込めているように思う。それが、のぶが戦時中、子どもに間違った教育をしてしまったことにも重なってくる。未来ある子どもたちに何を伝えたらいいのか。やなせたかしの『アンパンマン』はその思いの集大成である。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK