『Turkey!』も『舟を編む』も見逃したらもったいない! 脚本家・蛭田直美の秀逸な人間描写
蛭田直美が脚本を手掛けるアニメ『Turkey!』が素晴らしい。
本作は、長野県一刻館高校のボウリング部に所属する高校2年生の音無麻衣、一ノ瀬さゆり、三鷹希、二階堂七瀬、そして1年生の五代利奈の5人の女子高生の物語。
部長の麻衣はボウリングの才能があるが、ターキー(3連続ストライク)を出すと、なぜか4投目でスネークアイ(両端にある7と10のピンが残る)を出してしまう欠点があり、後輩の利奈から「やる気がない」と怒りをぶつけられる。
勝ち負けよりもボウリングを楽しむことを優先する麻衣と勝負にこだわる利奈はいつも衝突しており、愛想を尽かした利奈は部活を辞めようとする。
そんな利奈に麻衣はボウリングの勝負を挑み、私が勝ったら部に残ってほしいと説得するのだが、勝負の途中で5人はボウリング場のレーンの奥に吸い込まれ、戦国時代にタイムスリップしてしまう。
女子高生がボウリングを楽しむアニメになるかと思われた『Turkey!』だが、第1話終盤で5人が戦国時代にタイムスリップするという超展開を迎えたことで、多くの視聴者を驚かせた。
スネークアイ、アウトスパット、バランスライン、ビッグフォー、フックボールといったボウリング用語が各話のタイトルの中に用いられており、各エピソードを象徴する重要な要素となっている。そういったボウリングの要素が戦国時代という舞台設定とどのようにリンクするかは第5話終了の時点では見えてこないが、蛭田直美がこれまで書いてきたドラマの脚本はどれも素晴らしかったため、本作も綺麗にまとまるのではないかと信頼している。
現在NHKでは、2024年にNHK BSで放送された蛭田直美脚本のドラマ『舟を編む ~私、辞書つくります』が放送されている。本作は、三浦しをんの同名小説(光文社)を原作とする辞書編集部を舞台にしたドラマだが、舞台を2010年代後半に移し、ファッション雑誌出身の女性編集者を主人公に変えることで、原作の魅力を踏まえた上で現代的な物語にアップデートすることに成功している。
2022年にNHK BSで放送されたオリジナルドラマ『しずかちゃんとパパ』は、ろう者の父と暮らす娘を主人公としたホームコメディの傑作だが、物語の背後にある地元商店街の大規模な都市開発計画をめぐる人間模様の見せ方が秀逸だった。
また、2025年1月期に放送された区議会議員選挙を題材にしたドラマ『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)にも蛭田は参加している。どの脚本も、ヒューマンドラマを支える、社会的背景の描き方が実にしっかりしている。
高校生の妊娠を描いたドラマ『あの子の子ども』(カンテレ・フジテレビ系)の冒頭では、避妊に失敗した女子高生がアフターピルを処方してもらうために産婦人科を訪れるかどうかで悩む姿が丁寧に描かれ、その後も高校生が妊娠したら学校、病院、家族がどういう反応をするのかを視聴者に追体験させていくようなリアルな作品となっていた。綿密な取材の元に展開される蛭田脚本の細部の描写には毎回驚かされる。しかも、それが情報の寄せ集めでは終わらず、例えば『舟を編む』ならば、辞書作りを通して「人間にとって言葉とは何か?」といった壮大なテーマへと繋がっていくのが彼女の脚本の面白さだ。