『鬼滅の刃』と『国宝』の対照的なヒットを解説 共通項は“日本的意匠”と細部へのこだわり
今年の夏の2大ヒット作となっている『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(以下、『鬼滅の刃』)と『国宝』。かたや国民的人気のタイトルで、ヒットは当然と思われる作品、もう一本は誰も予想だにしなかった大ヒットとなっている。
映画興行は水もので、ヒット確実と思われた作品が売れないこともある一方で、予想外のヒットが生まれることもある。この対照的とも思える2本のヒットの要因を探ることで、今後の映画産業のヒントがつかめるかもしれない。
カンヌで期待値上昇、4週連続右肩あがりの快進撃『国宝』
6月6日に公開された『国宝』は、ロングランヒットの様相を呈しており、8月3日までの公開59日間で観客動員数604万人、興行収入85億円を突破している。上映時間が約3時間近くある作品としては異例のヒットとなっている。
本作の興行の特筆すべき点は、公開初週以降、右肩上がりに興収を伸ばし続けたことだ。通常、映画興行は封切り最初の週がピークで、あとは下降線を辿るが、『国宝』は、4週連続で前週を超える成績をマークした。上映が始まってから観客の口コミによって、より多くの人を呼び寄せたことになる。
だが、『国宝』は公開前から期待の声が大きかったことも事実だ。5月にはカンヌ国際映画祭に出品。吉沢亮をはじめ、出演者も現地入りし、高い評価を得たことがニュースを通じて伝わった。
GEM Partnersの調べでは、『国宝』はカンヌ絡みのニュースで、『8番出口』と並んで圧倒的なバズを獲得している。(※1)そして、そのまま期待値を上げ続け良いタイミングで公開できたことで第1週目から3.4億円の成績を記録している。この成績自体、決して低い数字ではない。
そして、そのように高まった期待値を持って公開を迎えた上に、その期待をさらに超える鑑賞満足度を引き出す内容だったことで、口コミの絶賛がどんどん拡大していったと思われる。こうなると、メディアも後追いで乗ってくるので、そのバイラル効果は何倍にもなっていく。
こうして、尻上がりに興行を伸ばしていくのは2018年の『ボヘミアン・ラプソディ』に似ている。『ボヘミアン・ラプソディ』は映画館でライブを体験できるという、昨今のヒット映画に多い「体感重視」の作品であったが、『国宝』は日本の伝統芸能である歌舞伎の舞台体験の濃密さを、裏側から味わえるような特別な時間を提供している。作風は異なるが、特別な時間を堪能できるという点で、映画館まで足を運ぶに値する何かを、観客は感じ取ったのだろう。