中川大志と山中聡が初の“二人芝居”に挑む 飯塚健監督と語り合う「コントと音楽」の挑戦
映画監督の飯塚健が演出・脚本・選曲を務める、“芝居×食×音楽”による会場一体型エンターテインメントショー「コントと音楽」。2年ぶりの開催となる第6弾『最低二万回の嘘』では、「嘘」をテーマに、シリーズ初となる中川大志と山中聡による二人芝居が繰り広げられる。
まだ稽古も始まっていない段階で、舞台となるCOTTON CLUBに中川、山中、飯塚の3人に集まってもらい、『最低二万回の嘘』への意気込みや、「コントと音楽」のこれまでとこれからについて語り合ってもらった。
「コントと音楽」の“原点”となる初の二人芝居
――中川さんが会場に入るなり、「来てしまった」とつぶやかれていました。やはりここに来ると感じるものがありますか?
中川大志(以下、中川):vol.03からCOTTON CLUBさんでやっているので、いろんな思いがありますよね。内臓がキリキリするような、いろんな出来事が蘇ります(笑)。
山中聡(以下、山中):普通の舞台と違って、楽屋から出てここに来るだけで緊張するんですよ。
飯塚健(以下、飯塚):今日もエレベーターで「嫌だ」と言ってましたもんね(笑)。
山中:そう、全然慣れないんです(笑)。
中川:今も楽屋で準備をして会場に降りてきましたけど、本番のときにも毎回、その動線を通ってくるんです。あんなに緊張するエレベーターはない、みたいな(笑)。劇場とは違って“袖”という概念がない場所なので、はけることがないんですよね。客席との境界線が曖昧というか、一度出ちゃうと逃げも隠れもできないので、その緊張感はあるかもしれないです。
飯塚:歌を歌っているときはステージですけど、お芝居をやる場所は客席ですからね。セリフを言いながら、その先にいるお客さんと目が合っちゃうなんて、普通の劇場ではないですから。しかも、食事をしている人やお酒を飲んでいる人もいる。すべてが相まってエンターテインメントになるという空間は、やはり特別ですよね。
中川:お客さんからもらえるエネルギーも本当にすごくて。その渦の真ん中にいるので、いいことも悪いことも起きるっていう(笑)。すごく大変で、タフな環境ではありますね。
――今回は2年ぶり、6度目の『コントと音楽』。さらにはCOTTON CLUB 20周年記念公演でもあります。
中川:ライブレストランにおけるラインナップの中で、やっぱり『コントと音楽』は異質の演目なんですよね。さらには20周年という大事な年の夏に、2週間もやらせてもらえるというのは、本当に幸せなことだなと思います。
飯塚: 2年前にvol.05をやって、なんとなく区切りのような感覚がありました。ですからもしvol.06をやるのであれば、守りに入らずにやっていないことをやらなきゃいけないと。これは完全に私事ですけど、この1年、育休を取っていたんです。それが明けて初めての仕事がここである、さらにはこの2人とやれることが、最高にありがたいなと思っています。
山中:僕は最初にお話を聞いたとき、「二人芝居かぁ」とは思いましたけどね(笑)。
中川:そうですね(笑)。でも、聡さんも僕も『コントと音楽』の歴史のポイントポイントで関わらせてもらってきたので、「その2人がここに残ったんだ」とも思います。
山中:僕はvol.02から出ていて、『コントと音楽』を観たことがないんですよ。
中川:(うれしそうに)僕は観たことがあるんですよ。
山中:そうでしょ? でも、もし「違うキャストでやる」と言われたら寂しいだろうなと。だから、「お前と大志くんで行くよ」と言われたときには、やっぱりすごくうれしかったです。
――飯塚監督からご覧になって、中川さん、山中さんが『コントと音楽』にマッチしていると感じる所以も聞かせてください。
飯塚:「こういうことを書いて渡したら、おふたりがどう演じてくれるだろう」という楽しみがあることが、書き手としては幸せなことだなと思いますね。何より特殊なのが、『コントと音楽』には歌もあること。生バンドを背負うので、カラオケがうまいだけじゃ太刀打ちできないわけですよね。芝居をやって、歌に入って、また戻ってきて芝居のセリフを出していく。もちろん耳も妙な感じになると思うので、物理的な部分も含めて“俳優としての運動神経”が達者でなければ、ここに立つことはできないと思います。前回、(柄本)時生が出てくれたけど、その前に観に来たときに「俺、これは無理」と思ったんですって。
中川:あれだけの舞台に立ってきた、時生くんが。
飯塚:そう、下北を背負って立つ男だと思うんですけどね。結局、呼ばれたら逃げられなくて、「受けざるを得なかった」と言ってくれてました(笑)。
中川:実際に出て、時生くんもだいぶ食らってましたよね。
飯塚:食らってたね。それに近いことを岡山天音くんが観に来たときにも言ってました。「これはちょっと無理かもしれない」って。
中川:冷静に考えたら、すごいことをやっているんだなと思えてきました(笑)。
山中:客席で観たら、たしかにそう思うのかもしれないね。でもほら、僕は一回も観たことがないから(笑)。ひたすら全力でやっています。
――それほどのプレッシャーを感じながらも、おふたりが「この作品に出たい」と惹かれるのはなぜなのでしょう?
中川:純粋に、飯塚監督の書かれるお話が毎回毎回楽しみで、「どんな役がやれるんだろう」というのがまずひとつ。それから、やっぱり『コントと音楽』は他にないエンターテインメントなので、お客さんだけでなく、僕らも他では味わえない刺激があるんですよね。すごく負荷がかかるけど、その負荷を求めているのかなって。これからのことを想像するとお腹が痛いですけど(笑)。ちょっと中毒性があるのかもしれないです。
山中:僕はこの作品が、「なんで自分が役者をやっているのか」という原点のような気がするんです。「誰かに幸せになってもらいたい」とか「楽しませたい」ということよりも、「自分が楽しみたいから役者をやっているんだな」と飯塚監督の本を読むと再確認できる。この空間はすごく緊張するけれど、すべてが終わってカーテンコールのときにお客さんの顔を見ると、ほとんどの人が「楽しかった」という顔をしているんですよね。それはなぜかというと、きっとここにいる全員で舞台を作っているような気がするからだと思うんです。そこがやっぱり、他の舞台とは少し違うのかな。自分が楽しむためにやっているんだけど、それによって周りも楽しんでくれた、ということを確認できる場所。役者の原点ですよね。これがあるから、映画やテレビの仕事もできる。僕にとっては外せない場所という気がしますね。
飯塚:すごくうれしいです。この作品は、僕自身にも負荷がかかるのは間違いなくて。セットもないし、衣装を着替えることもできない。その中で何を書くのかは、毎回試されている感じがしますよね。これも毎回思うけど、2人に脚本のファイルを送信するときに「あれ、つまらないもん書くようになったな」と思われたら終わりだなと。それは信頼関係のある俳優全員に言えることで、もう二度と出てくれなくなるだろうなと思うんです。さらにはさっき大志が言ってくれたように、夏の大事な時期に2週間もCOTTON CLUBさんも空けてくれている。「もし俺が一行も書けなかったら、どうする気なんだろう」と、悩んで止まっているときにいつも思います(笑)。そういう意味でも、メンタルに来ますよね。
――今回は二人芝居ということで、これまでとはまた違った作品になりそうです。
中川:今まで俳優部は5、6人のメンバーでやってきたので、当然ながらセリフ量だったり、歌だったり、担わなきゃいけないところが増える怖さはありますね。でも、聡さんと一緒なので信頼感もあるし、安心感もある。この空間が大海原だとしたら、船が出たときに頼れるのは“ここ(役者同士)の繋がり”しかないんですよね。それが2人になることで、より強くなっていくのかなと思います。
山中:僕の気持ちとしては、ちょっとお客さんの感覚とかぶるところもあると思うけど、ずっと大志くんを見ていられる。「大志くん、独り占め!」みたいな(笑)。
飯塚:あははは(笑)。
山中:もちろんそれ以外のこともありますけど、そこはちょっと楽しみですよね。「ずっと大志くんを見ていていいのね」って。きっとお客さんは幸せだろうし、僕も一緒に幸せになりたいなと。自分のやることは置いておいて、それはひとつの醍醐味だと思いますね。
――飯塚監督は脚本執筆真っ只中だと思いますが、手応えはいかがですか?
飯塚:手応えはあるんですが、明らかに大変です。でも初期の段階から「二人芝居で良くないですか?」と言っていたこともあって、それこそ原点な気がするんです。一人芝居は最強だとして、「2人俳優がいたら、こんなにいろんな世界を見せられるぞ」というのは、すごくカッコいいこと。例えば実際の会話で30秒黙ることなんてよくあることだけど、4人くらい俳優がいると「誰かセリフを忘れているんじゃないかな」と思われてしまう。けれども2人なら、「これはそういう芝居なんだ」とわかってもらえるはずなので、そこでどんな空気になるのか見てみたいなと思っています。ダイナミックに1分くらい黙ってもいいかも知れませんね。