『しあわせな結婚』阿部サダヲはなぜ松たか子に惹かれたのか 幸太郎の心理を読み解く
そして、完璧に見えていた“優しい男”の顔は、積もり積もった不安や疑念によりしだいにひび割れ、崩れ始める。それが露わになったのが第3話のラストシーンだ。事件のことをきっかけにネルラと言い争いになった際、幸太郎はついこう口走ってしまう。「依頼者に信用されていない弁護士ほど、惨めなものはない」と。それは決してネルラを追い詰めるための言葉ではなかった。むしろ腕利きの弁護士としての自負は、ネルラの助けになるため手を尽くしたいと願っている幸太郎の唯一のよりどころでもあったのだろう。けれど結果としてそのひと言が、これまで築いてきた夫婦の信頼関係を壊してしまった。
公益を守るために法律を運用するのが法律家の仕事であると、幸太郎は固く信じている。その信念と、夫として妻のネルラを守ろうとすることははたして矛盾するのだろうか。それは現時点ではわからない。ただ、今言えるのは、少なくとも幸太郎側にはネルラを判断するための材料があまりにも不足しているということではないだろうか。
人間が他人に干渉する行動には、必ず何かしらの意図や目的があるものだ。それをうまく察するためには、まずはその人自身をよく知る必要がある。けれど、幸太郎はネルラという女性を十分に知らないまま一緒になってしまった。こんなにも複雑な背景と謎を抱えた女性であることすら知らないまま、当然、相応の覚悟も持たずに。だから、幸太郎には彼女の真意がなかなか掴めない。ふたりの間に流れる時間はまるで別のリズムで進んでいるかのよう。どこかズレていて、互いが互いに追いつけていない。
『しあわせな結婚』で大石静が描く“しあわせ”とは? 毒をはらんだ創作哲学から紐解く
7月17日より始まるドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)。「妻が抱える大きな秘密を知ったとき、彼女を愛し続けられるのか?」と…それでも、短い結婚生活の間、どんなささいな場面でもネルラに求められる役割に全力で応えようとしてきた幸太郎の姿には、たしかに彼なりの誠実な愛情があったと思う。それに幸いというべきか、現在の幸太郎は法に則って公正な判断を下す検事ではなく、依頼人の過去や秘密に寄り添い、その背景にある事情を汲み取り守る立場の弁護士だ。そういった意味では、ネルラの真実を丸ごと引き受ける覚悟は、むしろ彼が弁護士として積み重ねてきた姿勢と通じる部分もあるのかもしれない。
一度は途切れた夫婦の絆は、はたしてどのような形で修復されるのか、あるいはさらにすれ違ってしまうのか。今後の展開からも目が離せない。
大石静が脚本を手がける、夫婦の愛を問う“完全オリジナルホームドラマ”であり、令和の“マリッジ・サスペンス”。主演を務める阿部サダヲと松たか子は、10年ぶりに夫婦役を演じる。
■放送情報
木曜ドラマ『しあわせな結婚』
テレビ朝日系にて、毎週木曜21:00~21:54放送
出演:阿部サダヲ、松たか子、板垣李光人、段田安則、岡部たかし、玉置玲央、金田哲、馬場徹、辻凪子、堀内敬子、小松和重、杉野遥亮
脚本:大石静
監督:黒崎博、星野和成、楢木野礼
ゼネラルプロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)
プロデューサー:田中真由子(テレビ朝日)、山形亮介(テレビ朝日)、森田美桜(AOI Pro.)、大古場栄一(AOI Pro.)
音楽:世武裕子
主題歌:Oasis「Don’t Look Back In Anger」(Sony Music Labels Inc.)
制作協力:AOI Pro.
制作著作:テレビ朝日
©テレビ朝日
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