追悼ソン・ヨンギュ 『エクストリーム・ジョブ』など韓国映像界を支えた“名脇役”の軌跡

 2025年8月4日、韓国の俳優ソン・ヨンギュの訃報が報じられた。享年55歳。韓国メディアによれば、京畿道竜仁市で車内に倒れているところを発見され、警察が現在状況を調べているという(※1)。俳優人生の途中での突然の別れは、関係者やファンに衝撃をもって受け止められた。

 まず思い浮かぶのは、彼の名前を知らなくても顔を見れば思い出すと言われるほど、多くの映像作品に欠かせない存在として活躍してきたその歩みである。華やかな主演の陰で、作品全体にリアリティをもたらす“名脇役”として、ソン・ヨンギュは誰よりも静かに、しかし力強く韓国ドラマの礎を支えてきた。

 1970年4月18日生まれのソン・ヨンギュは、ソウル芸術大学校演劇科で演技を学び、1994年に子ども向けミュージカル『モトル老師』で俳優としてのキャリアをスタートさせた。舞台で積み上げた経験はテレビ・映画といった映像の世界でもそのまま活かされていった。

 ソン・ヨンギュが演じてきた役は実に幅広い。無骨な刑事から物腰柔らかな幹部、コミカルな脇役から狂気を秘めた悪役まで、彼は文字通り“カメレオン”のように姿を変えながらも、どこかに人間らしさをにじませる演技を忘れなかった。

 映画では、2019年のヒット作『エクストリーム・ジョブ』でチェ課長役を好演。肉体派の刑事というだけでなく、コミカルな要素と人情味を絶妙に織り交ぜたその演技は、観客の記憶に強く残った。テレビドラマでも代表作は枚挙にいとまがない。『恋のスケッチ~応答せよ1988~』では父親のような温かさを感じさせるキム・テヨン役を演じ、『花郎<ファラン>』では社会の中で葛藤を抱える大人たちの姿を丁寧に表現した。

 また、『ザ・プロファイラー〜見た通りに話せ〜』ではプロファイラーのナ・ジュンソク役として、冷静かつ陰のある存在感を放ち、近年もNetflixシリーズ『ナルコの神』、『カジノ』など、グローバル配信作品での活躍が続き、そして現在も『アイショッピング』『TRY~僕たちは奇跡になる~』といった作品に出演中であった(※2)。まさに現役のまま、その人生に幕を下ろすこととなった。

 報道によれば、6月には飲酒運転の疑いで摘発されるなど、私生活において難しい局面に立たされていた時期でもあった。それでもなお俳優という仕事に誠実に向き合い続けた姿勢は、作品に触れた多くの人々に届いていたはずだ。訃報が報じられた直後、SNSでは彼の出演作や役柄を懐かしむ声が寄せられたが、なにより心に残るのは、彼がこれまで数え切れないほどの韓国ドラマや映画の中で、物語をしっかりと支える役割を果たしてきたことだろう。

 名前を知らなくても、顔を見れば物語のなかでどこかを確かに支えていたことを思い出す。そんな俳優の不在は、作品を遡るたびに深く胸に染みる。目立ちすぎない存在感で、あらゆる物語を地に足のついたものへと導いてきたソン・ヨンギュ。今後も彼の出演作を通じて、その確かな技術と人間味は、私たちの記憶に静かに息づき続けるだろう。

参照
※1. https://m.mbn.co.kr/news/society/5131196
※2. https://kstyle.com/article.ksn?articleNo=2265766

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