“歌う俳優”はますます増えていく? 平成から令和にかけて変化した“歌手デビュー”のあり方

 そういえば平成前半あたりまでは、人気が出た俳優が“歌手デビュー”し、ときに大ヒット曲を出すことはよくあった。

 たとえば織田裕二。主演ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)シリーズの主題歌「Love Somebody」はあまりにも有名だ。反町隆史も主演ドラマ『GTO』(カンテレ・フジテレビ系)の主題歌「POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~」などヒット曲をはじめ、歌手としての顔もよく知られている。吉田栄作の「心の旅」もチャート上位を記録した俳優の歌う曲の代表格だろう。

BLUE ENCOUNT × Takashi Sorimachi『POISON』レコーディングインタビュー ドラマ「GTOリバイバル」主題歌

 「恋をした夜は」などのヒット曲がありシンガーソングライターとしての活動も一時期精力的に行っていた江口洋介も、映画『湘南爆走族』での俳優としてのデビューのほうが先だ。もはやアーティストとしてのイメージのほうが強いであろう福山雅治も、映画『ほんの5g』での俳優デビューが先で歌手デビューはその2年後だ。

 もちろん、それぞれの俳優が歌う理由は異なっていただろう。もともと歌手・アーティスト志望で自分の意思で歌い始める場合もあれば、人気が出たことによって「歌も出しちゃおう」というビジネスの幅を広げるノリ的な歌手デビューすることになったケースも多くあったはずだ。これは女優も同じで、上戸彩や仲間由紀恵、綾瀬はるか、深田恭子など、実はCD/レコードをリリースしていたという女優も数知れず存在する。「ZOO」を歌った菅野美穂や「MajiでKoiする5秒前」などの広末涼子、「Only You」の内田有紀、「タイヨウのうた」の沢尻エリカ、そしてRUI名義でリリースした「月のしずく」がミリオンセラーを記録した柴咲コウなどヒットを記録した曲を持つ女優も数多い。モデルとして活躍後に女優としてデビュー、その後2021年には本格的な音楽活動を開始した池田エライザも歌手としての評価は高い。

KO SHIBASAKI CONCERT TOUR 2019『EARTH THE KO』 月のしずく | 柴咲コウ

 このような俳優が歌手デビューという流れは、昭和の時代も渡辺徹や中村雅俊、水谷豊、西田敏行、さらにさかのぼれば石原裕次郎や小林旭など、今も多くの人が口ずさむ歌手デビューした俳優による名曲は数々誕生してきた。

 そもそもこの“歌手デビュー”というものは、エンタメの世界で活躍するスターたちにとって、ひとつの大きな達成点、ステータスだったのだろう。ここまで記してきた俳優たちばかりでなく、人気が出たお笑い芸人やタレント、なかにはふとしたことで時の人となった“一般人”的な人までCD/レコードをリリースするということも少なくなかった。レコード業界が現在よりも勢いがあり、歌手デビューがひとつのステータス、勲章だったことをあらためて実感させられる。

 俳優の歌手としての顔は、前述のような「人気があるから」というものもあることに加え、声質や表現力なども重要な要素ではないかと思う。そのいっぽうで、歌手デビューした俳優が音楽に対する思い入れが強いことをアピールすると、本業は歌手じゃないくせにといった視点での反発を受けることもあった。音楽への熱い思いの表現が、そこは俳優らしさというか、ときに過剰になってしまうからか、“役者ロック”などという揶揄するような表現をされることもあったりした。

 さて令和。こういった売れたことでCDデビューという流れをたどる俳優は、気付けばあまり見かけなくなった気がする。近年俳優としてもアーティストとしても活躍する面々の名前をいくつかあげてみると……。

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