胡蝶しのぶ“5つ目の蟲の呼吸”が劇場版で初解禁 『鬼滅の刃 無限城編』童磨戦を解説

 7月18日より公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が、公開初日から驚異的な記録を打ち立てている。オープニング成績・初日成績・単日成績のすべてにおいて、歴代No.1を達成。社会現象としての『鬼滅の刃』の強さを、改めて印象づけるスタートとなった。

 本作について語られるべきポイントは数多い。極限まで緻密に描かれた戦闘シーンの作画、劇場音響で際立つ効果音や劇伴、そして見応えのあるキャスト陣の演技。だが、あえてここでひとつ挙げるなら、丁寧なアニメオリジナル描写の妙だろう。

 中でもとりわけ印象的だったのが、上弦の弐・童磨と胡蝶しのぶの戦いである。

 今回の劇場版では、原作漫画には登場しなかった“5つ目の蟲の呼吸”が初めて登場した。その名も「虻咬ノ舞 切裂の誘い(もうかのまい せっさくのさそい)」。上映を観て「見慣れない型がある」と気づいた原作ファンも多かっただろう。こちらは劇場公開から3日後の7月22日に発売された『劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来 ノベライズ』(集英社)内で技名が明らかになった。

 他にも、このノベライズを読んでみると、原作漫画では描かれなかったが劇場版で足された描写に気付かされる。たとえば、童磨に毒が効かず、しのぶが苛立ちから舌打ちをする場面。劇場の静寂を切り裂くように響いたその舌打ちに、思わず痺れた観客も多かったに違いない。このシーンもまた、しのぶという人物の内に秘めた怒りと焦燥を、アニメが見事に視聴覚的に表現した瞬間だった。

 劇場版の大きな魅力のひとつは、原作にない要素を“足しすぎず・削りすぎず”、丁寧に可視化していく演出力にある。たとえば、無限城の中にそびえる童磨の神秘的で美しい屋敷。その空間に、しのぶが迷い込むように足を踏み入れていく描写は、幻想的でありながらどこか不穏な緊張感も帯びており、観客の目を惹きつけた。

 とりわけ、胡蝶しのぶが操る「蟲」のビジュアルは圧巻だった。映画では技を繰り出す際にリアルなエフェクトが加えられ、虫の形状が不快感すら覚えるほど生々しく演出されていた。美しく華奢な彼女の技が、実は肉食の虫というややグロテスクなモチーフで構成されている事実に、今さらながら気づかされる。まさに、華やかさの対極にある毒と殺意を、花のような微笑みの裏に潜ませた柱なのだ。

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