さらに第15話は、アニメーションの演出面でも彼の成長を際立たせていた。サイエンスSARUのアクション演出はもちろんキレッキレなのだが、むしろ緩急の付け方が絶妙だった。大技を繰り出す派手なシーンだけでなく、殴られて床に伏す間の、血のにじむようなカットの積み重ねが、オカルンの覚悟を静かに物語っていた。そうした演出に花江の決して完璧ではない声が重なることで、キャラクターの息遣いがリアルに、皮膚感覚で伝わってきた。滑稽で、情けなくて、でも誰よりも真っ直ぐ。その声が“ヒーロー”の定義を更新していた。

　ヒーローとは、生まれ持った力の有無ではなく、“誰かを守る”と決めたときに生まれるものなのかもしれない。オカルンは強くなったのではない。ただ“覚悟した”だけなのだ。そしてその覚悟を、情けなさも含めて伝えられる声優こそが花江だ。あの回の、あの叫びが、こんなにも心に残っているのは、彼の声が“戦う理由”を教えてくれたからに他ならない。

　オカルンとモモの関係性も、花江の演技を語るうえで見逃せない要素だ。第2期では、彼女の存在がオカルンにとってただの友人や仲間を越え、生きる理由のようなかけがえのないものになっていく様子が繊細に描かれている。オカルンがモモに想いを伝えられずに葛藤する姿も、花江の感情のゆらぎを丁寧に拾った芝居によってリアリティを際立たせている。特に第15話では、モモを地上に逃がすために自らを犠牲にする場面が印象的だった。あの静かな覚悟の滲む声にこそ、彼女を守りたいという一途な想いが込められていたように思う。さらに、ジジの登場によって感情を揺さぶられる嫉妬の芝居や、邪視に立ち向かう戦いの中で燃え上がる怒りの爆発も、すべてが恋心と友情の延長線上にある。この不器用で誠実な少年が、誰かを守ることで強くなる姿を、花江は誇張せず、あくまで人間らしい温度感で演じていた。

　オカルンは、かっこつけようとしてもカッコ悪い。戦っていてもズボンが脱げる。敵に勝っても、すぐに叫びながら逃げる。それでも、誰かを守ろうとする姿だけは、どんなヒーローよりも眩しい。そんなオカルンに心を掴まれた人は、きっと花江の声の中に“かっこ良くなくても戦える人”の姿を見たのではないだろうか。かっこ悪いヒーローは、私たちにとって、一番リアルで、心強い存在なのかもしれない。あの叫びは、そんな私たちの心の底からの声を代弁してくれる強さを持っていた。ヒーローとは、完璧な存在ではなく、不器用でも大切なもののために立ち上がれる人のことを言うのだと、オカルンは教えてくれる。だからこそ、彼の言葉は響いてくるのだ。

■放送・配信情報
TVアニメ『ダンダダン』
第1期：各配信サイトにて全話順次配信中
第2期：MBS／TBS系スーパーアニメイズム TURBO枠にて、毎週木曜0:26〜全国同時放送
キャスト：若山詩音（モモ／綾瀬桃）、花江夏樹（オカルン／高倉健）、水樹奈々（星子）、佐倉綾音（アイラ／白鳥愛羅）、石川界人（ジジ／円城寺仁）、田中真弓（ターボババア）、中井和哉（セルポ星人）、大友龍三郎（フラットウッズモンスター）、井上喜久子（アクロバティックさらさら）、関智一（ドーバーデーモン）、杉田智和（太郎）、平野文（花）、磯辺万沙子（鬼頭ナキ）、田村睦心（邪視）
原作：龍幸伸（集英社『少年ジャンプ＋』連載）
監督：山代風我
シリーズ構成・脚本：瀬古浩司
音楽：牛尾憲輔
キャラクターデザイン：恩田尚之
宇宙人・妖怪デザイン：亀田祥倫
アニメーション制作：サイエンスSARU
第1期オープニングテーマ：Creepy Nuts「オトノケ」
第1期エンディングテーマ：ずっと真夜中でいいのに。「TAIDADA」
©龍幸伸／集英社・ダンダダン製作委員会
公式サイト：https://anime-dandadan.com/
公式X（旧Twitter）：@anime_dandadan