しかし、悩み抜いた末に、新庄は凛との別れを決意する。そして最後に、静かな時間を2人だけで過ごすことを選ぶ。プライベートビーチで語らい、笑い合う時間。凛は新庄の髪を自分とお揃いのぱっつんに切りながら、「もし私がまた記憶を失ったら、事実は言わないで。また私のパパだって、嘘をついて」と告げる。その表情はどこまでも幼く、切なかった。人類の希望として生まれた少女は、本当はただ、誰かに“愛されたかった”だけなのかもしれない。

　一方、物語は警察内部にも波紋を広げていく。県警の刑事部長・辰岡（徳重聡）が捜査に介入し、須之内（江口洋介）ら所轄チームは排除されてしまう。過去には、須之内が追っていた被疑者を辰岡が“身代わり”で処理したという因縁もあった。組織の力学と個人の正義がぶつかる中で、須之内たちは無力感を抱えながらも、なお真実に食らいつこうとする。

　そして新たに明らかになるのは、警備員・松田の過去。かつて執刀ミスによって妻とお腹の子どもを亡くし、病院を訴えたにもかかわらず、今もなおその病院で働いているという矛盾。そして田川は院長の秘密を握っている様子もあり、栄進記念病院の背後にある闇はさらに深まっていく。

　凛からZキャピタルズの本性を聞かされた新庄は、やはり凛をこのままにしておけないと2人で逃げることを心を決める。凛は水原のスマホを盗み、パスワードを突破して栄進記念病院に連絡を入れる。新庄は潜入に成功し、ついに芽生と再会。「必ず戻ってくるから」。その一言には、命を懸けた決意がにじんでいた。

　しかし、鮫洲（栄信）に連れてこられたその場所で、新庄を待っていたのは彼の命を狙う人物だった。水面下で何かが動いていることは察していた新庄は、自らが病院にいた事実をあらかじめ警察に伝えるよう手配していた。自分が消されるかもしれないという最悪の展開すらも見越しての布石だった。一方で凛も独断で別荘を抜け出していた。2人が再会を誓い合ったのは、灯台。お互いにその場所を信じて、命がけで向かっていた。けれど運命はまたしても残酷だった。新庄は須之内に捕まり、凛はケビン（鈴木浩介）に見つかってしまう。

　それでも、あの浜辺で交わした言葉と時間が、2人にとって確かな光だったことは間違いない。たとえ凛が記憶をなくしても、誰かの“パパ”でいたいと願った新庄。たとえ“希望”という名の檻に閉じ込められても、ただの少女として生きたかった凛。彼らの関係に、名前なんて必要ない。そこには、静かで強い絆があった。だからこそ、また2人が冗談を言い合って、笑い合える日が来ることを願わずにはいられない。

■放送情報
『誘拐の日』
テレビ朝日系にて、毎週金曜21:00〜21:54放送
出演：斎藤工、永尾柚乃、深澤辰哉、江口洋介、内田有紀、安達祐実、鈴木浩介、長谷川初範、望海風斗、佐藤寛太
原作：『誘拐の日』©ASTORY & KT Studiogenie／脚本 キム・ジェヨン
脚本：丑尾健太郎
監督：深川栄洋、片山修
音楽：長岡成貢
主題歌：yama「us」
ゼネラルプロデューサー：大江達樹（テレビ朝日）
プロデューサー：峰島あゆみ（テレビ朝日）、菊池誠（アズバーズ）　
制作協力：アズバーズ
©︎テレビ朝日
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