『あんぱん』はやなせたかしの自伝をどう脚色? “史実”に重なる物語がいよいよスタート

 やなせが書いたことがどれだけ本当かわからない。なにしろ彼は作家である。「殺し文句」をキーワードにして、おもしろくおかしく、暢を魅力的なキャラクターにして書いているようにも思う。

 いまだとよく、作家が妻を悪妻化して語るようなものだろうか。古今東西、作家がパートナーを多少盛って魅力的に語るのは芸のひとつでもあるだろう。

 なので、やなせの書いたものすべてが史実とは限らないだろう。だからこそそのままドラマにするのではなく、さらに想像を加味していく。それが『あんぱん』なのかなと思う。『あんぱん』では告白に関しては嵩に花を持たせたのだろう。いや、まだ気持ちを確かめあっただけで、プロポーズの場面はべつにあるかもしれない。そのときはのぶが先導する可能性も残されている。

 とまれ。こうしてスタートラインに立った嵩とのぶ。第17週では手塚治虫をモデルにした手嶌治虫(眞栄田郷敦)の登場が示唆された。ほかにもいずみたくをモデルにしたいせたくや(大森元貴)や永六輔がモデルの六原英輔(藤堂日向)の登場が発表されている。これから続々と実在の偉人が活躍しそう。どうしたってヒット作目白押しのサクセスストーリーになっていくので、書きやすいだろう。安心して見続けたい。

 朝ドラの後半になると、主人公が親になり、子どもとの関わりをドラマにすることが増えていく。ところが今回は、子どものいない夫婦がモデルのため、出産、子育てが描かれない。現在再放送中の『とと姉ちゃん』(2016年度前期)は生涯独身のヒロインで、それが朝ドラでは珍しかった。今回は、子どものいない夫婦の話で、それも朝ドラでは珍しい。世の中には様々な夫婦の形があるという点において、やなせ夫婦の話はひとつの例として、朝ドラに新たな物語の可能性を誕生させたといえるだろう。

 「やなせさんの赤ちゃんが産みたい」と言った暢には子どもがいなかった。アンパンマンはやなせ夫妻の子どもの代わりだったとも言われている。のぶが子どもの教育に興味を持ち、戦後は戦災孤児や浮浪児のために働こうと考えることで、いつもの朝ドラとは違う子どもと主人公のドラマになっている。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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