『べらぼう』森下佳子脚本の凄さが凝縮された“桜”への思い 治済の放つ“毒”が恐ろしすぎる
どうしたら人々の暮らしが良くなるのか。国が豊かになっていくのか。大きな夢を描きながら意次と政について生き生きと語る意知。しかし、残念ながら成果が出ていない今、そのひたむきな姿は市中の人々にまで届かない。むしろ、意知の策によって一部の商人が米の買い占めと転売で儲けたという話や、意知が吉原に通っているという情報が重なって、真面目な姿は建前で裏では上手いことやって私腹を肥やしている悪人だという噂が真実味を帯びてくる。
佐野に咲かせることのできる「ひと花」といえば、そんな悪徳政治で栄華を極めた田沼家に一矢報いることしかない。そう考えるのも無理はない。もちろん、そんなことをすれば切腹を命じられるということも覚悟の上。「願わくば花の下にて春死なん」というサブタイトルは、意知と誰袖が見た夢でもあり、決死の思いで佐野家の桜を最後に咲かせてやるのだという佐野の夢でもあった。
きっと今の時代なら、佐野家の桜の木が花をつけなかったことも、もっと冷静に原因を受け止めることができたはず。少々気になって桜が花をつけなくなるのにはどのような理由があるのかと調べてみたところ、代表的な病気に「天狗巣病」と呼ばれるものがあると知った。カビの一種に感染することで枝の一部が異常に密集してコブ状になり、天狗の巣のように見えることが名前の由来になっているらしい。
ふと、意次が「白天狗」と治済のことを呼んでいた記憶が蘇って身震いした。白天狗こと治済が、佐野家の桜の木まで操作したとは考えすぎだとは思う。しかし、それほどもはや治済がどこまで手を回しているのかわからないという恐ろしさ。それこそ私たち視聴者の心にも疑心暗鬼の鬼が襲いかかっているということなのかもしれない。江戸の市中の人々もきっと同じように何が真実なのか見えなくなっていたことだろう。そんな世間に蔦重が、本を持って明るい光を差してくれることを願わずにはいられない。
参照
https://www.hananokai.or.jp/sakura/sakuramihonen-info/sakuramihonen-info-list11/
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK