『あんぱん』嵩はもう「たっすいがー」じゃない! のぶを庇う姿にキュン
30分で1カットの次は、50分で1ページ。NHK連続テレビ小説『あんぱん』第73話では、嵩(北村匠海)のスキルが『月刊くじら』創刊の危機を救った。
短時間でイラストを描き上げなければならない嵩の状況にこちらがヒヤヒヤするが、嵩本人は焦ることなく淡々と着実に手を動かしていく。鉛筆でアタリを付けていく真剣な眼差しには、「やっとマンガが描ける」という喜びのようなものも感じられた。東海林(津田健次郎)が繰り返し口にした「困ったときのメガネくん」は、嵩のモデルになっているやなせたかしが実際に業界内で言われていた「困ったときのやなせさん」からくるものだろう。
御免与町では、『月刊くじら』の創刊に朝田家の面々が歓喜していた。1家で3冊も購入しているのが微笑ましい。締め切りに追われながら書いた手芸の先生の記事、何度も闇市に取材していたからこそ叶った戦災孤児による座談会。のぶが一つ一つ向き合って取り組んできたことが、雑誌という形として高知県民に届けられた。嵩が時間に追われて描き上げた漫画は『ミス高知』。失敗のミスと女性のMissをかけたシャレの効いたタイトルで、闇市で雑貨を売っていたときに嵩が読んだアメリカの雑誌の影響をうっすらと感じる。
校了間際での活躍によって、嵩は『月刊くじら』編集部へ異動に。『月刊くじら』初版2000部は2日で売り切れ、その功績により次号は4ページ追加に。雑誌のスケジュールを踏まえると、初稿があがったあとの4ページの追加はいいニュースというより、悪いニュース寄りである。とはいえ、創刊号の売れ行きと手応えによって気合いは十分。編集部のメンバーは早速企画会議に取り掛かる。
企画を考えつつ、岩清水(倉悠貴)のなかにも、のぶ(今田美桜)、東海林の中にも「東京に行きたい……」という願望が浮かんでいた。明らかに言葉と感情が一致していない3人の三者三様のリアクションが微笑ましいやりとりだった。『あんぱん』では、これまで一つのグループでのやり取りを濃く描いていく場面は少なかったため、『月刊くじら』編集部でのやりとりが作品に新たな魅力を加えたように感じられる。
戦時中は東京・銀座で歩くことなんて贅沢だと、嵩からのプレゼントを拒絶したのぶが、戦後の後悔から立ち直り、見たことがないものを見てみたいと心を踊らせている。嵩の目配せには、そんなのぶの変化を喜ぶような感情が見える。