大塚が演じたキャラクター遍歴を振り返るにつれ、筆者が強く感じるのは、令和という時代において、男性のメインキャラクターに求められているのは「キャラっぽさ」よりも「生っぽさ」なのではないかということだ。

　もちろん、ひとくちに“メインキャラクター”と言っても、その在り方や役割は作品や媒体の特徴によって大きく異なる。アクションを牽引する存在もいれば、物語の軸を支える静かな語り手として描かれることもある。原作がゲームか、漫画か、小説かによっても、その立ち位置やトーンは変わってくるだろう。だからこそ、役者はその世界観に応じて演技を柔軟に変えていくものであり、それ自体は大前提としてある。

　そのうえで、ここ数年のアニメ作品における男性メインキャラクターの傾向を見ていると、かつての“記号的な理想像”から、より等身大で、感情の揺れや弱さも含んだ“生っぽさ”のある人物像へと、少しずつシフトしてきているように思う。

　たとえば、2010年代前半には、女性視聴者を主なターゲットとしたアニメでは『薄桜鬼』『DIABOLIK LOVERS』『AMNESIA』『BROTHERS CONFLICT』など、乙女ゲーム原作の“ザ・逆ハーレム”系が一定数を占めていた。ヒロインを取り巻く多彩な男性キャラクターが物語の中心を担う構成は、男性声優にとってもキャラクターの個性や魅力を発揮しやすいジャンルのひとつだったように思う。筆者自身も、そうした作品群を原作・アニメともにリアルタイムで楽しんできた。

　これらの作品では、乙女ゲーム特有の台詞回しや関係性の描写がアニメにも丁寧に反映されており、キャラクターごとの刺さるセリフや印象的なシーンがしっかりと用意されていた印象がある。作品ごとに世界観の幅はあれど、乙女ゲームらしさを活かした演出が多く見られ、演じる声優の芝居や声のトーンもそれに寄り添う形で作られていた（もちろん、作品によって差はあるが）。

　現在は、一部のソーシャルゲーム原作作品を除けば、乙女ゲーム原作アニメの数は以前より落ち着いてきている一方、Web発の漫画やなろう系小説を原作とした作品が台頭している。現代のOLが転生する悪役令嬢モノや、不憫な溺愛モノといった、より現実の人物像や出来事に即した感情や関係性に焦点を当てる作品も増えた。そこに登場する男性キャラクターもまた、理想的な存在でありながら、現実にいそうな距離感や、弱さ・不器用さを含んだ人物として描かれる傾向を見出せる。

　夢を見せる存在でありながら、感情を重ねられるリアリティを持つこと。今の作品における男性メインキャラクター像は、そんな二面性を備えた存在へとシフトしてきているのかもしれない。

　さらに、アニメ化される作品自体も、以前に比べてターゲット層が広がり、男女問わず幅広い世代を視野に入れたタイトルが増えてきた。少年誌や少女漫画原作であっても、いわゆる“女性向け”“男性向け”といったジャンルの枠組みを越えた作品も増えつつあるなかで、キャラクターの声に込められる表現も、より多様で柔軟なものになっている。

　感情の機微や存在のリアリティを丁寧に描き出すようなアプローチが必要な作品が増えている今、大塚剛央が持つ“体温”――感情の揺れや戸惑い、その人物の誠実さがごく自然ににじみ出る芝居の質感――は、まさに令和の主人公像に必要なものなのだろう。

■放送情報
TVアニメ『薬屋のひとりごと』
日本テレビ系「FRIDAY ANIME NIGHT（フラアニ）」枠にて、毎週金曜23:00～放送
第1期：各種配信プラットフォームにて配信中
キャスト、悠木碧（猫猫役）、大塚剛央（壬氏役）、小西克幸（高順役）、種﨑敦美（玉葉妃役）、石川由依（梨花妃役）、木野日菜（里樹妃役）、久野美咲（小蘭役）、島本須美（ナレーション）
原作：日向夏（ヒーロー文庫／イマジカインフォス刊）
キャラクター原案：しのとうこ
総監督・シリーズ構成：長沼範裕
監督：筆坂明規
副監督：中川航
脚本：柿原優子、千葉美鈴、小川ひとみ
キャラクターデザイン：中谷友紀子
美術監督：髙尾克己（ARED）
色彩設計：相田美里
CGIディレクター：永井有
撮影監督：鈴木麻予（T2 studio）
編集：今井大介
音響監督；はたしょう二（サウンドチームドンファン）
音楽：神前暁、Kevin Penkin、桶狭間ありさ
オープニングテーマ：幾田りら「百花繚乱」
エンディングテーマ：平井大「幸せのレシピ」
アニメーション制作：TOHO animation STUDIO×OLM
製作：「薬屋のひとりごと」製作委員会
©日向夏・イマジカインフォス／「薬屋のひとりごと」製作委員会
公式サイト：kusuriyanohitorigoto.jp
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