『セキュリティ・チェック』は傑作“120点”映画 ジャウマ・コレット=セラの職人技が光る

 本作には『ロスト・イン・シャドー』のような過剰な暴力も『レベル・リッジ』のような新しさも『セーヌ川の水面の下に』のような我々がひっくり返るような展開もない。つまるところ、Netflixオリジナルが時折叩き出す尖り切った個性で突き抜ける120点タイプの映画ではない。むしろジャウマ・コレット=セラらしい定番のサスペンススリラー映画だ。しかし、だからこそ細かいところで技術力の高さが光る。

 恋人を人質にとられた上に監視カメラで一挙手一投足監視されているという「こっからどうにかするの、無理では?」というほぼ詰んだような状況から、イーサンは空港というシチュエーションを活かした細かい頭脳戦で徐々に反逆の糸口を掴む。その一方で敵も知能犯に相応しい胆力と冷酷を持ち合わせており「いざ逆転か?」という状況から思いもよらぬ邪悪な一手でイーサンをさらに追い詰めていく。

 この「敵を追い詰めたかと思ったら逆に自分が追い詰められていた」という気持ちのいい攻防と徐々に圧を強めるような展開は定番といえば定番だが、こういうのを実直に、しかも豊富かつ洗練されたアイデアでやってくれるのはやはり良いものである。

 そしてジャウマ・コレット=セラが愛らしいのは、このような定番のサスペンス映画に意外にも凝ったアクションを入れてくれるところだ。『アンノウン』(2011年)の頃からサスペンスの名手としてシチュエーション設定を活かしたカタルシス溢れるアクションを撮っていたが、『フライト・ゲーム』ではトイレの個室で発生する超至近距離格闘戦。『トレイン・ミッション』では電車の通路で発生する疑似ワンカットのアクションなど、シチュエーション、演出ともに実はかなり意欲的なアクションを撮ってきた。

 あまりにも手堅い映画を撮るためアクション演出家としての才能を見落とされてきたが『セキュリティ・チェック』を経た今、その評価は完全に変わるだろう。特に中盤で突如発生する車内アクションは韓国映画を彷彿させるようなキレのあるカメラワークと目を見張るような大事故ぶりを見せ、まさにジャウマ・コレット=セラの集大成的アクションと言える。

 『セキュリティ・チェック』はサスペンス映画の五大栄養素的なものが綺麗な五角形を描いている映画であり(車内アクションだけちょっとぶっ飛んでいるが)、Netflixオリジナルでは珍しくハリウッド的王道を行きながら突き抜けた魅力を放つ映画でもある。クリスマスの日、素晴らしい仕事をしてくれたスタッフとキャストの名前を眺めながらほっと一息つきたいのなら『セキュリティ・チェック』は外せない。

■配信情報
『セキュリティ・チェック』
Netflixにて独占配信中
出演:タロン・エジャトン、ジェイソン・ベイトマン、ソフィア・
カーソン、ダニエル・デッドワイラー、ローガン・マーシャル=グリ
ーン、ジョシュ・ブレナー、ディーン・ノリスほか
監督:ジャウマ・コレット=セラ
脚本:T・J・フィックスマン、マイケル・グリーン
©2024 Netflix, Inc.

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