キタニタツヤ×なとり『るろうに剣心』OPに込めた思い 「すごく偏った部分を書いている」
不朽の名作『るろうに剣心』のTVアニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』が、10月から待望の第二期「京都動乱」へ突入した。アニメ、映画、OVA、ゲーム、実写映画、ミュージカルと、幅広いメディアミックスで愛され続ける本作。新たなオープニングテーマ「いらないもの」を手がけたアーティストが、キタニタツヤとなとりだ。
宿敵・志々雄との決戦を目前に控え、神谷道場を後にした剣心。仲間たちを守るため、独り東海道から京都へと向かう彼の胸中で、不殺の誓いが激しく揺れ動く。圧倒的な剣技を持ちながらも、剣心の心には微妙な翳りが宿るこの章。その複雑な心情を、二人はどのように楽曲へと昇華させたのだろうか。
さらに、キタニタツヤとなとりが抱くアーティストとしての揺るぎない信念、そして時代の流れと共に変容を続けるアニメの主題歌について、二人の率直な思いに迫った。
『るろうに剣心』には推しキャラを作りたくなる魅力がある
ーーまずはお二人の『るろうに剣心』との出会いから教えてください。
キタニタツヤ(以下、キタニ):『るろ剣』にちゃんと触れたきっかけは、実は今回のタイアップでした。実写映画にも、1996年版アニメシリーズにも触れてこなかったので、初めて原作をちゃんと読み始めました。
なとり:僕は実写映画がちょうど世代で、周りのみんなが観ていたこともあって『るろうに剣心』を知りました。そこから、1996年版のアニメや原作を知っていきました。
ーー『るろうに剣心』のどこが面白かったですか?
キタニ:今回アニメ化されている「京都編」で言うと、剣心が自分に縛りをかけているところですね。刀ものは昔から少年漫画のジャンルとしてあるけど、この作品は敵と同じくらい、剣心が自分の中の倫理観と戦ってるのが面白いなと。周りはそれを求めてるわけじゃないのに、不殺(ころさず)の誓いを自分に課してる。主人公像として、今までそんなヒーローを見たことなかったので、その設定から生まれる、剣心の独特な感情の動きが好きです。
なとり:僕はキャラがみんなどこか仄暗さがあるけど、わかりやすい信念を持っているところが面白いなと思いました。キャラの思想とか、佇まいとか……。『るろうに剣心』には、つい推しキャラを作りたくなる魅力があると思います。
ーーそんななとりさんの推しキャラは?
なとり:四乃森蒼紫さまです。もうすごくシンプルにビジュアルがタイプで。でも、時代が違えば四乃森蒼紫が正義だった時代もあるんじゃないかな。そういう、それぞれのキャラが掲げる正義の形の違いも魅力だと思いました。
キタニ:特に今回の第二期「京都動乱」は、苦しんでいく剣心の内面だったり、それまでの人間関係を一度捨てる流れが描かれます。最初自分は『るろうに剣心』を知らない状態でお話を聞いたので、「なんで自分なんだろう」と思ったんです。剣心の内面のぐちゃっとした葛藤みたいなものを描く。勝手にではありますけど、「俺に求められてるのはそういうことなのかな」と思ったんです。
ーーその剣心の“葛藤”が、今回の楽曲を作る軸となったのでしょうか?
キタニ:そうですね。曲を書くにあたって、自分が書いた部分は「剣心わかるぜ!」って、本当に感じたことしか書いてないです。なので『るろうに剣心』の作品全体を曲の中で書けたとは思ってないですね。すごく偏った部分を書いていると自分では思ってます。
なとり:わかります。今回のお話を頂いたときに、「京都編」のオープニングを担当するということが、すごくしっくりきました。毒があって、少しひねくれたところがある感じ。それが、僕的にはやりやすかったです。
ーー毒ですか。
なとり:はい。『るろうに剣心』の世界観の要素っていろいろあると思うのですが、キタニさんのおっしゃったような不殺の誓いとか、逆刃刀、剣心の顔にある十字傷などは僕的にすごく印象に残っている部分でした。そういうモチーフにも反映されているような、剣心が秘めている“禍々しさ”を言葉にしていくことにしました。
ーー楽曲制作にあたって、アニメ制作側からは何かオーダーはありましたか?
キタニ:今回は特に細かいオーダーはありませんでした。結構お任せしていただいてますね。最初、二人でスタジオに集まって、メロディーを出し合って。そこからなとりくんと僕の方で細かくやり取りして……という進行で、結果的に完成したものもお互いが出したメロディーの組み合わせになってます。これで合ってる(笑)?
なとり:合ってます(笑)。キタニさんから最初頂いたトラックをもとに、シンセメロを作っていって、完成系に近づけていって……。完全に方向性が決まってたわけではないんですけど、やっぱりアニメのオープニングなのでキャッチーさは意識しました。
ーー具体的に楽曲のどんなところに“るろ剣らしさ”を落とし込みましたか?
キタニ:自分は、特にAメロの悲壮感が“『るろ剣』らしい”部分だと思ってます。ここは剣心の心情にすごく合ってるんじゃないかな。アニメソングだからある程度はキャッチーにする必要があるのですが、同時に土砂降りの雨に打たれてるような情けない感じも表現したくて。そういう意味で、Aメロが一番“どん底”な感じがします。このメロディーはなとりくんがメインで作ってくれたのですが、サビのキャッチーな部分に少しずつ向かっていくグラデーションが、剣心の心情にリンクしてるような。
なとり:ありがとうございます。僕は、繰り返される「僕のせいだ」っていうフレーズが、剣心の葛藤をよく表現していると思います。“『るろ剣』らしさ”というか、自分を責めてしまう“剣心らしさ”がすごく出ている部分だと感じてます。
キタニ:好きなものが近い二人だから、一人が作ったんじゃないかと思えるくらい統一感がある曲になってるはず。声は全然違うけど、歌詞やメロディー、編曲などが同じ方向を向いてるのがいいなと思ってます。同時に、楽曲のなかに“キタニタツヤとなとりの違い”も如実に表れているので、そういうところも聴いてみてほしいですね。
ーーでは、「いらないもの」というタイトルはどのようにして決まったのでしょうか?
キタニ:タイトルは自分が決めちゃいました。今回の内容で言えば、剣心が今まで積み上げてきた人間関係に対して、まだ未練があるけど捨てないといけない、という板挟みの状態にあるじゃないですか。
ーーそこは今回の章の魅力にも繋がってきますね。
キタニ:剣心が捨てた「いらないもの」は大きなものですが、精神的な断捨離ができない情けなさのようなものって、剣心に限らず、すごく普遍的なものだと感じていて。そういう些細な葛藤と、剣心との感情の間に共通点を見出そうとしたときに、「いらないもの」というテーマがぴったりだと思ったんです。いつか歌にしたいと思っていたテーマでもありましたし、ストレートに「いらないもの」というタイトルにしました。そう提案したら、受け入れてもらえたんですけど……どう思った?
なとり:最高です、本当に! めちゃくちゃ良かったです。
キタニ:「最高です」って言わせてるみたい(笑)。
なとり:いや、本当にとても好きですよ!
キタニ:よかった〜(笑)。
なとり:剣心と自分の感情の間の共通点で言うと、今回、僕は剣心がすごく強がって何かを隠している雰囲気を感じて。僕自身、なとりとして、剣心の中の一部に強いシンパシーを感じたんですよね。
ーーどんなシンパシーを感じたのか気になります。
なとり:実は僕、普段はすごく自分に自信がないタイプなんです。でも、歌を作るときは「自分は世界で一番すごいやつだ」みたいな気持ちで創作をしていて。本当に心の底からそんなふうに思っているわけじゃないんだけど……そういう強がりに近い部分を剣心からも感じました。剣心の中の一部を自分ごととして感じられたからこそ、今回のような曲になったんだと思います。