『宙わたる教室』何のために“頑張る”のか? 窪田正孝の“実験”が科学の楽しさを呼び起こす

 科学部の顧問・藤竹(窪田正孝)は、夜間は定時制高校の教師として働き、昼間は無給で大学職員を続けていた。朝8時に研究室へ行くと、大学院生の鷲見(浦上晟周)がソファーで寝落ちしている。「昨日の夜のシアトルの惑星学会のセッション、リアルタイムで見たくて」と彼が浮かべた純粋無垢な笑顔が、今回のエピソードが伝えたいことの全てを物語っているように思えた。

 火星クレーターの再現実験も大詰めにさしかかっている『宙わたる教室』(NHK総合)。第7話では、コンピューター部の部室を借りて重力可変装置を設置した科学部の学生たちが、火星と同じ重力になった実験ボックスの中に隕石に見立てた弾を打ち込む方法について考え始める。

 岳人(小林虎之介)と長嶺(イッセー尾形)は発射装置の開発、佳純(伊東蒼)とアンジェラ(ガウ)は火星の土の再現と、二手に分かれて実験を進めることに。学校の課題や、それぞれ日中にやることもある中での部活動はきっと大変だろうに心から楽しそうな彼ら。もちろん、睡眠不足は大敵で無理は禁物だが、さりとて寝る間も惜しんで没頭できるものがあるというのは幸せなことだ。

 一方で、JAXAと名京大学が共同で進める「しののめプロジェクト」のリーダーに選ばれた藤竹の大学の同期・相澤(中村蒼)は追い詰められていた。「しののめ」は、多くの成果を収めた「はやぶさ2」に続く新しい惑星探査で、世間からの注目度も高い。これを機に科学分野の予算拡大を目指す名京大の教授・石神(高島礼子)は、徹底したスケジュール管理の下で研究員たちを監督する。

 そんな石神からの過度な期待に押しつぶされそうになるあまり、つい部下に声を荒げてしまう相澤。こうなると、どうしても石神が悪者に見えてしまうが、彼女も彼女で必死なのではないだろうか。

 かつて石神の指導教員だった伊之瀬(長谷川初範)は、彼女の辞書に「失敗」の文字はないという。物語の軸からは逸れてしまうかもしれないが、まだまだ男性の研究者が圧倒的に多い分野において女性という立場で現在の地位まで上り詰めるのは容易ではなかったと想像できる。だからこそ、失敗は許されず、皮肉的に語られることもある政治力を身につけるほかなかった部分もあるのだろう。

 そんな彼女の背負うプレッシャーが相澤に、相澤からまたさらに下の研究員たちに伝染していき、チーム全体がギスギスとした雰囲気になっていく。本来、知的好奇心を刺激される科学の楽しさが失われていくこの悪循環から距離を置きたくて、藤竹は石神の研究室を離れたのかもしれない。

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