劇場版『It's MyGO!!!!!』「春日影」考察 音楽アニメ史への“逆張り”ライブはなぜ生まれたか

 加えて総集編ならではの描写として指摘しておくべきなのは、楽奈がバンドを志したきっかけに「大ガールズバンド時代」があったということだ。「大ガールズバンド時代」とはシリーズ最初期に生まれたバンド・Poppin'Partyと同時代に活躍したバンドたちの切磋琢磨を指して生まれた用語で、かつての楽奈はこの時代のアーティストたちに憧れていたのだった。

 つまり楽奈が「春日影」を奏でることは「大ガールズバンド時代」=『BanG Dream!』シリーズの歴史そのものの肯定を意味する。ところが何度も言うように「春日影」の成功はそれ自体「挫折」である。

 したがって「春日影」は「大ガールズバンド時代」の「肯定」を意味すると同時にその「破壊」をも意味しているのであり、これは近年の「ガールズバンドアニメ」ブームが実際に「大ガールズバンド時代」と呼ばれていることを考えると示唆的である。『BanG Dream!』シリーズこそが「大ガールズバンド時代」の創造・肯定・破壊を可能にするからだ。

 もともと既存の音楽(アイドル)アニメへの「逆張り」的要素を含んでいた『BanG Dream!』シリーズ(以下の記事を参照されたい)が、さらにもう一歩先にある自己否定的な「逆張り」へと踏み込んだ結果誕生したのが「春日影」である。

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 そのうえで、今日公開された『うたう、僕らになれるうた』で描かれるシーンは何を意味するだろうか。

 本作のハイライトとなるシーンは「『春日影』の呪縛」に囚われた少女たちが唯一、一瞬だけ「居場所」の肯定に成功する瞬間、「詩超絆」の演奏である。

詩超絆(アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」#10 挿入歌)

 同シーンでは輪になったメンバーが、お互いに向き合いながら演奏する演出が印象的だ。サビの直前に各メンバーの表情をクローズアップで映した(2:10〜)かと思えば、サビが始まった瞬間にカメラは180°急旋回し、かつ高速で後退しロングショットへと切り替わる。

 個々人の胸の内に抱えていた感情が、一気に解き放たれたかのようだ。

 「成功体験自体が挫折を意味する」絶望の循環から、「つながり」としての円環へ。演奏中に「輪」になって互いを向き合う彼女らは、悲劇の循環から抜け出すべく別の輪=循環を生み出すことで抵抗=ロックを試みているかのようである。

 音楽アニメへの「逆張り」としての「春日影」へのさらなる「反抗」としての「詩超絆」を、大スクリーンで見届けたい。

■公開情報
劇場版『BanG Dream! It's MyGO!!!!! 後編 : うたう、僕らになれるうた & FILM LIVE』
全国公開中
原作:ブシロード
監督:柿本広大
シリーズ構成:綾奈ゆにこ
脚本:柿本広大、綾奈ゆにこ、後藤みどり、小川ひとみ、和場明子、晴日たに
キャラクター原案:ひと和、植田和幸
キャラクターデザイン:信澤収、もちぷよ
アニメーションキャラクターデザイン:茶之原拓也、八森優香、Shin Joseph
CGスーパーバイザー:奥川尚弥
モデリングディレクター:武内泰久、寺林寛、松田 唯※劇場版から参加
リギングディレクター:矢代奈津子、柏木亨
色彩設計:北川順子、石橋名結、松下由佳※劇場版から参加
撮影監督:奥村大輔
美術監督:山根左帆、対馬里紗
美術設定:成田偉保
編集:日髙初美
音響監督:柿本広大
音楽:藤田淳平(Elements Garden)、藤間仁(Elements Garden)
音楽制作:ブシロードミュージック、エースクルー・エンタテインメント
アニメーションプロデューサー:松浦裕暁、保住昇汰
アニメーション制作:サンジゲン
製作:BanG Dream! Project、ブシロード、TOKYO MX、グッドスマイルカンパニー、ホリプロインターナショナル、ウルトラスーパーピクチャーズ
出演:羊宮妃那、立石凛、青木陽菜、小日向美香、林鼓子ほか
©BanG Dream! Project
公式サイト:https://mygo-movie.bang-dream.com/
公式X(旧Twitter):@bang_dream_mygo
公式Instagram:https://www.instagram.com/bang_dream_official_/

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